恋は思案の外 | ナノ

03


 「西条キリです。よろしくお願いします」

 開いた口が塞がらない、とはこの事で転校生と紹介された、ついこの間出会った少女ーー西条キリの姿を見て米屋と出水は思わずアイコンタクトを取る。

 当の本人は緊張からなのかガチガチで、視線を彷徨わせている。覚えていないのか、緊張しているのか二人には気付いていないらしい。

 「そうだな・・西条、出水の隣のに机を持っていくからそこに座ってくれ。ちょうどそこだけが一つだからな」

 (っしゃ!)

 出水はガッツポーズをして米屋に勝ち誇ったような顔をする。対する米屋はつまらないと言わんばかりに机に肘をついた。

 ーーこんな面白そうなネタを逃してたまるか。

 先生に用意された席に座ってもなお、気付かないキリに出水は声をかけた。

 「ねぇねぇ、君、この前の子?」

 「えっ・・? あー!」

 キリはここでようやく出水の事を認識したらしい。授業が始まったことを思い出したのか、キリは慌てて声のトーンを落とす。

 「出水さん・・でしたっけ、あの時はありがとうございました」

 「いいえ、あらためまして出水公平、ヨロシク」

 出水はそう言ってペンを持っていない方の手を差し出す。差し出した手を見て、キリはちょっと俯いた。

 「こ、こちらこそ・・!」

 そして、上げられた顔を見て出水は思わずシャーペンを落とした。

 「よろしくお願いします・・!」

 真っ赤になって気恥ずかしそうに笑いながら、キリは手を握り返したのだ。






 「そっかーキミ、ボーダー隊員だったワケ?」

 すっかり日も傾き、帰路へとつくべく下駄箱で上履きをはき替えながら、米屋がキリに質問する。

 「いいえ。隊員じゃないです」

 キリはぶんぶんと首をふる。まだ二人に慣れていないのか少し距離を開けているーーが、それを米屋はぐいぐい押し入る。

 「えっ、じゃあなんでここに転校?」

 「ま、まぁ・・ボーダーと色々・・その」

 歯切れが悪そうなキリに、二人は顔を見合わせつつ校門へ向かう。 

 「でもよかったー・・少しでも知っている人がいるって心強い・・」

 「は? 転校は自主的にじゃなくてボーダーの指示?」

 瞬時にキリはぶすっとした顔になった。今までの大人っぽい顔が一変して年相応の顔になる。

 「そうなんです、いきなりアイツが家に来てーー」

 そこで、何かを見つけたキリははっと表情を変えるーーその表情に、出水はどことなく違和感を覚えた。

 「あーっ! アイツ!」

 「アイツ?」

 「・・あいつ?」

 キリの視線を追ってみると、そこには唐沢がいた。

 (おいおい、ボーダー上層部の人をアイツ呼びってこの子何者なんだよ・・)

 キリは二人に振り向き、

 「ごめんなさい、私アイツに用があるから・・! また明日!」

 そう言って、あの時と同じように彼女は嵐のように去っていく。

 「ひゃー、あの子は一体何者なんだよ・・唐沢さんをアイツ呼びする人初めて見た・・」

 そう言う米屋に出水はニヤッとする。

 「まぁ、明日から色々聞けるしなー、隣だし」

 「むかつくな、弾バカのくせに」

 「うるせぇな槍バカ」


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