01
今日の取引先との面会は午後から。珍しく遅い時間から始まる仕事をいいことに、午前中は眠るーーつもりだった。
「こら! 起きろ唐沢!」
ばっと布団と毛布を取られて、一気に朝の冷気が体を襲う。疲労で重い瞼を必死に押し上げて声の主を見る。
「これはどういうことよ! 転校ってなによ、転校って!」
声の主は、唐沢の腹の上に跨ってぎゃんぎゃん喚く。三十を超えた自分には少しこれはツライ目覚めである。
「・・君ね・・仮にも男のーー」
「うっさい! 起きろ! 三十路を過ぎた男なんて興味ないわよ!」
ふたたびぎゃんぎゃん声と共に叩かれ、惰眠を貪ることを諦めて唐沢は起きるのだった。
「・・で、何かな?」
「何かな? じゃないわよ、こんの野郎!」
そういって昨日拾った同居人ーー西条キリは、テーブルに何か叩き付ける。その衝撃で、目覚めのコーヒーは少し零れてしまう。
「・・あぁ・・転入届け・・ね」
「あぁ・・じゃないわよ! 何勝手に転校させてんの! 私には私の生活があるの! 壊さないで!」
「・・分かったから落ち着いてくれませんか・・その声は寝起きに悪い」
そう言って少し減ってしまったコーヒーを胃に流し込む。悠長な唐沢が気に食わないのか、西条キリはいらいらと机を人差し指でこつこつ叩く。
「君にはボーダーと連携している高校に通ってもらう」
「はぁ? それも契約のうち?」
「・・我々には君を守る義務がある。それにこの高校には隊員がいるしね」
「ぜっっっったい行かない!」
頑なな西条キリに唐沢は少し乱暴にコーヒーが少し残ったマグを置く。その音に、西条キリは肩を震わせた。
「・・君ももう高校生だろう。少しは聞き分けがよくなった方がいい。・・それに、君が今どんな立場に置かれているかも」
「ーっ・・!」
西条キリは尚も反抗的にこちらを睨む。そんな視線を気にすることなく、唐沢は立ち上がった。
「制服は今日の午後届く。月曜からは嫌でも通ってもらう」
そして一方的に会話を終わらせるために、リビングと廊下を隔てる扉を閉めた。
(少しキツかったか・・)
音沙汰ないリビングに目をやりつつ洗面所に向かう。そして、いつになくムキになっていた自分に気付いて、らしくないな、と溜息をつくのだった。
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