たとえば、ひっつかないで、と、言ったところであいつには通じないんだろう。なぜなら、あいつは強欲で、自分の思い通りにしなければ気がすまないからだ。わたしはそれに逆らえない自分が嫌だ。
「ねえっ、ちょっと、」
「なんだよ」
「さ、触んないで」
「…それは無理な注文だな」
グリードはにやりと笑うと、さらにわたしに迫ってきた。壁に追いやられて、顔の横にはグリードの手もあって、もう動けないわたしにとっては絶対絶命だ。
見た目はリンの姿だけど、声も目つきも違うし、中身はまったく違ってて、リンのときにはなんにもどきどきしなかったのに、なんで、どうして、今はこんなにどきどきするの?
「……なあ…」
「っや、」
耳元でささやかれて、そんな、甘くて融けちゃうような声で、わたしの鼓膜を震えさせて、そのうえ耳たぶを甘噛みするもんだから、もう聴こえそうなくらい大きな音を鳴らして鼓動する心臓に、わたしはグリードに聴こえないかと心配だった。ねえ、知ってる?人は心臓の動く回数が決まってるんだよ。グリードはわたしを早死にさせる気?
「あっ、グ、グリード、触んないでっ」
「だから無理だっつの」
「な、なんで」
「そりゃ好きな奴には触りたいだろ」
ずるりと力が抜けてきた。さっきまで踏ん張ってた足も、全然力が入んない。だんだん座り込むわたしのからだをグリードが支える。と、思ったら、グリードはわたしを痛いほど抱きしめた。
「…グリード」
「…………」
「グリードって、わたしのこと、好きなの?」
「ああそうだ」
そう答えた瞬間、グリードはわたしにキスしてきた。突然のことで、びっくりして、目を見開いたままでいると、少し目を開けたグリードと目が合った。そしたら、なぜか胸の奥がきゅうっと締め付けられて、唇が離れていったときも、グリードから目が離せなかった。
「…ほ、本気?」
「そうだ」
「ほんとに?」
「そうだっつってんだろ」
もう一度グリードがキスしてきた。今度は舌が入ってきて、逃げるわたしの舌に絡ませて、深く深くキスをする。わたしの息がもたなくて、苦しくてグリードの胸を押し返すと、最後にリップ音を残して唇は離れた。そしたらまた、ぎゅうっと抱きついてきたけど、嫌だと拒否出来ないのは、わたしもグリードのことが好きだからだ。
101010 五千打企画