君に溺れるほどに | ナノ



今日のぶんの仕事が終わり、ほっと息をつく。後ろにもたれると、座った椅子が少しぎしりと鳴った。すっかり冷めたコーヒーを流し込んで、伸びをする。


「仕事、終わったんですか」

「ああ、おかげさまでね」

「じゃあ、先帰っててください。私はまだ仕事が残ってますので」

「いや、待ってる」


席を立って、彼女のもとへ。一生懸命紙とにらめっこな彼女が可愛くて、後ろから抱き締めれば、驚いたのかびくりとした。そして一言。


「じ、邪魔しないで」


少し顔を染めていた。付き合って何年にもなるのにまだ慣れないらしい。
彼女は年下で、事務をやっている。そして一緒には住んでいないが、よく家に来る。だから一緒に住めばいいと言っているのだけど、彼女はなかなかそれを聞いてくれない。この前通い妻みたいだと言えば、彼女は顔を赤くした。


「コーヒー淹れてきてやろうか」

「いいです。ここのコーヒーまずいから」


きっぱりと断って、仕事にとりかかる彼女。を、見ていたら、なんだかいたずらをしたくなってしまうね。まだまだ私も若いからな。ふう、と、耳に息を吹きかけた。


「や…っ、邪魔しないでってば!」

「ははは、ごめんごめん」


顔を真っ赤にする彼女が可愛すぎる。そんな顔されたら、ついついキスをしたくなってしまうじゃないか。この前ハボックに自慢したら、惚気るなと言わんばかりの目で睨まれた。まあ惚気るのも仕方ないよな。彼女が可愛いんだから。


「…大佐、離れてください」

「ん?」

「もう、仕事…終わるので」


見れば書類はまだ書き上がっていなかった。さっき見たときよりも、少しも進んでいない。疑問に思っていれば、彼女の首に回した私の腕をきゅっと掴んで、震える声で、


「大佐がいるから、だめ…気になって書けないんです」


なんて言うから、どうしようもなくなる。彼女をこっちに向かせてキスをして、可愛くて愛しくて、胸が痛い。だから、長いキスをしてやった。唇を離せば、少し苦しそうに肩で息をしている。頬にリップ音をたててキスを落とす。


「……ばか」

「すまん。つい、な」


君のことが好きで、好きすぎて、いつも胸を締め付けられるような感覚を引き起こす。これが愛することだと気付いたのは、君と出会ったからだよ、なんて、そんなことを思いながらもう一度君とキスをした。



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