前髪を切った。のびた前髪、うっとうしくて、ぱっつんに切った。似合ってるかな。それとも似合ってないかな。何度も鏡を見たりして、新しい前髪の自分に違和感を感じたりして。なのに、
「前髪、切っタ?」
「うん」
「すごく似合ってル。かわいイ」
そうリンに言われて、嬉しくて、それだけなのに、新しい前髪はすぐにわたしに馴染んだ気がした。わたしって単純かもしれない。でも、なんだか恥ずかしくて、ありがとうも言えないわたし。
「べ、別に、可愛くない」
「照れてル?」
「照れてない」
ふいとそっぽを向いて、そう答えるけど、本当はリンに可愛いって言われて、嬉しくて、恥ずかしくて、ああ、どうしよう、素直じゃないわたしだから、可愛くないこと言っちゃうんだ。なのにいつもリンはそんなわたしに優しくしてくれる。そのたびにわたしはリンにときめくのだ。
「こっち、向いてヨ」
「…やだ」
「なんデ」
「リンこそどうして」
「俺はもっとその可愛い顔が見たいんダ」
「ば、ばか」
リンがそういうこと言うたびに、わたしは胸がきゅーんとする。リンへの『好き』があふれて、苦しくなって、どうしようもなくなる。リン、本当は嬉しいんだよ、けど恥ずかしいの、素直になれないの。
長かった前髪を切ったから、視界はすっきりと明るくて、リンの顔もよく見えた。ちらりとリンを見れば、目が合って、わたしは恥ずかしくてまた目を逸らす。
「なんで逸らス」
「だ…だって、」
「だっテ?」
分かってるくせに、いじわるだ。そのにやけてる顔、やめてよ。不意にリンの手が伸びる。なに、なんて言う前に、わたしの前髪をめくって、そのままおでこに、ちゅ、キスを落とした。
「な、ななな、なに、」
「あ、照れタ?」
「ててて、照れてないっ!ばか!」
リンがキスしたところ、熱い。触らなくてもわかる、絶対、ぜったい顔赤い!慌てふためくわたしの手をとって、リンがぐいっと引き寄せた。わたしとリンの間の距離はないから、感じるリンの鼓動とかぬくもりとかなんだかもう沸騰しそうだ。わたしの頭は容量そんなにでかくないよ、リン。
「………」
「そんな可愛くてどうすんのヨ」
「…なにが」
「他の奴に襲われるゾ」
まあ俺がそんなの許さないけド、なんて言って、さらにぎゅうっとしたリンの腕。苦しい、けど、なんか…なんだか、嬉しい。
「…リンが、いるから、大丈夫」
そう言って、ふとリンの顔を見れば、びっくりしたような表情で、どうしたの、って、問いかけてみれば、もっともっと、強く抱き締めてきて、これは、ほんと、苦しい、けど、わたしもリンの背中に手を回した。
わたし、リンに愛されてるんだなあ、そう思った。
100706 相互記念