もしも、そうだったなら。そんな夢をみても、自分から動かなければ、どうにもならないのに。
「今夜、暇かね」
「残業ですね、分かりました」
「…ほう、察しがいいな」
大佐が私にそう言うなんて、それしかないに決まってる。…なんて、自分で言ってて泣けてくる。もっと女の子らしくなりたいなぁ。もっと素直になりたいよ。そしたら、私、あなたに好きだって言えるのに。まぁ、それはそれとして、
「…ちょっと、大佐、なんでこんなに仕事溜めてるんですかー!」
「ははは、仕方ないよ」
「なにが」
笑いながらコーヒーをすする大佐を横目に、私はせっせと仕事を終わらせる。大佐、仕事してください!そのとき、ふと、私の上に影が重なった。
「ちょっと、失礼」
大佐の手が、私の顔の横を通って、書類をとった。ただそれだけなのに、私はどきどきしてしまう。大佐の香水の香りが鼻をくすぐる。胸が騒ぐ。静まれ、静まれ私の心臓!そう願っても、私の心臓は正直で、一向におさまる気配がない。たったあれだけのことなのに、私がどれだけ大佐のことを好きか、思い知らされた感じだ。
「…た、大佐、私、コーヒー淹れてきます」
こんなにどきどきして、仕事なんて手につかない。顔も熱いし、仕方ないからこのうるさい心臓がおさまるまで、別の場所にいよう。そう思って、席を立ったのに、
「いや、いい。ここにいろ」
なんて、言われたら、どうしようもなくなるでしょう?
「別に大佐のために淹れるんじゃないですよ。私が飲みたいんです」
「…いいからここにいなさい」
ああ、こんなときまで私の口はなんて可愛くない!自分で自分に絶望して、あげた腰をおろす。大佐に聞こえないようにため息をついて、仕事にとりかかろうとした。そしたら、今度は大佐が席を立って、なんで、どうして、私のすぐ近くにくるの?どうして私の隣にくるの?またあの香水の香りが鼻をかすめた。
「…な、んですか」
「いや?」
「用がないならあっち行ってくださいよ」
「…ふ、つれないな、君は」
そう言って大佐は私の肩を抱きよせて、もう、私は心臓がやばいくらいにどきどきして、頭ぐるぐる、なにがなんだか分からない。あの香水の匂いに包まれて、なんだか泣きたくなった。
「はな、はなれ、」
「いやだ」
あがいてみても、最初から分かっていたけれど、意味はまったくなさなくて、大佐はさらに力を込めた。ぎゅうっとされるのと同時に私の心臓もぎゅうっとなる。苦しい。大佐が私の首筋に顔を埋めた。
「いい香りがするな」
「………へんたい」
「ははは」
笑った大佐の顔にときめく。どきどきしてる心臓の音が、大佐に聞こえそうだ。ふと大佐と目が合って、逸らしたくても逸らせなくて、そしたら大佐がじっと私の目をまっすぐに見据えて、
「…好きだ」
なんて言うから、もう涙腺が崩壊しそう。大佐、大佐、私、勇気を出すから、こんなちっぽけな私の勇気を、どうか、どうか受けとってください。
「大佐、あのね、私、大佐のこと、」
100627 五千打企画