桃色メトロノーム | ナノ



どんどん鼓動が速くなる。少し喋っただけ、少し触れただけ、それだけで私の心臓は心拍数急上昇。たとえば君に気持ちを伝えられたら、私、どうにかなりそう。


「そこの、携帯とってや」

「え、あ、うん」


放課後、部活にいこうとする財前が、私にそう言った。話しかけられた、それだけでもうどきどき。机の上に忘れられてた財前の携帯をとって、渡す。そのとき、少しだけ、ほんの少しだけだけど、指先が触れた。


「おーきに」


それだけなのに心拍数はどんどん速くなる。教室から出ていく財前を見ながら、ひとつため息。好きなのに、好きって言えなくて、でも言える勇気なんてないから、ずっとこのままなのかなぁ。そう思うと、少し泣きそうになった。
今日は私は日直だから、日誌とか、先生に頼まれたプリント整理を始める。それがぜんぶ終わったときには外は真っ暗。職員室に行って、プリントと日誌を先生に渡す。


「先生、さよならー」


そう告げて、帰ろうとして、したけど、テニスコートの方からボールの音がしたから、気になって見にいってみた。


「…あれ、財前?」

「……こんな時間まで何やってんねん」

「ざ、財前こそ」

「俺は見てのとおり練習や」


周りを見れば、ボールがあちこちに散らばってたりして、財前がひとり、練習してたことが分かる。うわ、意外だ。片付け始めた財前を見て、私もボールを拾う。


「……なんでおんの」

「んー、先生の頼まれごとしてた」


ちょいちょい会話しながら、財前を見た。やっぱりかっこよくて、胸が騒ぐ。どうしたらいいんだろう、この気持ち。伝えたい、でもどうすればいいのか分からない。素直に言えば伝わるの?どうしたら私の気持ち、ぜんぶ君に伝わるの?
気付いたら、財前の裾をつかんでいた。


「…あ、」

「…………」

「ご、ごめ、」


ぱっとつかんでいた手を離す。そしたら、逆に財前の手が私の手をつかんだ。心臓の鼓動が、どうしようもないくらいに速い。何か言いたくても、口がうまく動かない。声帯がうまく震えない。何も言わない財前が、強く私の手を握ってくるから、どうしよう、期待してもいいの?


「ざ、いぜ…」

「喋んな」


やっと出た声はなんて弱々しい声で、そんな私をひっぱって、財前の腕は強く私を抱き締めた。私のどくどくと速い心臓の音が聞こえてしまいそうだ。


「そんな顔されたら、俺にどないせぇっちゅうねん」

「え…」

「…あほ」


財前はそれ以上何も言わないけど、なんだか腕のなかは心地よくて、安心する。どうしよう、財前のこと、すごい好きだ。どうしようもないくらいに。私のこの気持ち、財前に伝わってるといいな。財前の気持ちが、私に分かったみたいに。



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