酸素が溶ける | ナノ



「頭のよろしい財前くん、私に英語を教えてくれませんか」

「めんどい」

「即答ひどい」


悩む素振りも見せずきっぱりと言い切って、まったく、少しくらい悩んでくれたっていいじゃないか!ほんとに英語だめなんだよぅむりなんだよぅ!英語得意なら教えてくださいお願いします!


「何も俺にメリットないやん」

「物事を損得で考えへんの」

「教えてほしいんやったらなんかあるやろ」


えー…なんか?え?なに?何かあげないとだめなの?なんというケチ。仕方ないからごそごそポケットを探ったりしたけど何もない。飴ぐらい入ってると思ったのになぁ。


「ごめんなんもないわ」

「…ならむりやな」

「えええちょ、なんで!」


さっきまで読んでた雑誌に、また財前は顔を戻して読み始める。…ほんま悩む気ないというかやる気すら感じられない。仕方ない、もういいよって言って諦めよう。そうしよう。でも英語は諦められない…、そうだ!


「じゃあ忍足先輩に教えてもらうからええわ」

「は?」

「あの人も英語得意やろー?」

「なんでそこで先輩出てくんねん」

「だって財前教えてくれへんもん」


ぷいとそっぽを向いて、内心どきどき。勢いで言っちゃったけど、今の、嫌われたかな?ちらりと財前を見れば、うわぁなんて怖い顔!眉間にしわをよせて、じっとこっちを見ている。ぐいっと腕をひっぱられて、壁に押しつけられた。痛い。


「い、痛いです…」

「あ?」

「財前くん怖いですぅ…」

「あんたが悪いんやろ」

「え、私?」


どう見たって今の状況、私が脅されてる状況だし、…あ、え、もしかして、


「や、やいてんの…?」

「…何言っとん」

「いやだって、私が忍足先輩に教えてもらうとか言ったから…」


そう言うと、ちょっと財前の顔が赤くなって、え、え、なに、めっちゃ可愛い!声に出したら怒られるから、何も言わないでおく。今の、心に秘めておこう。そう思っていると、財前が舌打ちして、私にちゅ、とキスをした。


「え、え、」

「喋んな」


またちゅーしてきて、しかも長いよ苦しいよ!私の心臓はもう破裂しそう。やっと離れたから、必死に息をして酸素をとりこむ。


「しゃーないから教えたるわ」

「う、うそ!ほんま!?」

「はよ準備せぇや」


財前のデレを見た。これは勉強頑張るしかない!



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