そっと謙也の服をつかんだ。どうしよう、これだけで、私、心臓ばくばくしてる。どんだけ緊張してるのよ自分。謙也が不思議そうな顔してる。勇気をふりしぼった。
「あの、け、謙也!」
「ん?なに?」
「これ、こ、これっ」
「なにこれ?」
「くっ、クッキーや!」
半ば投げつけるように渡した、きれいにラッピングした手作りクッキー。な、中身割れちゃったかな、まぁいいか。とりあえず謙也に渡せたってことで!私はその場を逃げるように走って離れる。走って走って、ふと後ろを見れば、あれ、えええなんで謙也追いかけてきてんねん!もうすでに私はひいひいと息切れで、残りの体力で屋上に走った。
「はっ…はぁ、はぁっ」
「なんで逃げんねん!」
「おっ、追いかけて、くる、から!」
屋上にばたーんと乱暴に扉を開けて入ったとき、もうほぼ謙也と一緒に入った。くそう、足速いんだよばか!体力の限界を感じた私はそのままばたりと床に寝転がった。謙也は全然疲れてなさそうだ。
「……これ、」
「え?あ、ああクッキー?」
「…なんで、くれたん?」
「……今日は何の日よ」
「お、俺の誕生日…?」
「それ以外に何があんねん!察しろばか!」
うわぁ私何この可愛くなさ!自分で言っといてほんとに呆れる。謙也の方をちらりと見れば、ばっちり目があった。思わず背けた。
謙也が近付いてくるのが分かる。どうしよう、どうしよう、私、顔、赤い。謙也は寝転がる私の隣に座った。
「あー、どうしよ」
「なにが」
「めっちゃ嬉しい、おおきにな」
そんな眩しいくらいの笑顔で私に言うもんだから、やばい、心臓が跳ねた。上半身を起こして、謙也と向き合って座る。謙也の視線が私をじっと見ている。思いきって目を合わせてみた。
「……け、謙也」
「あ、はい」
「た、誕生日、おめでとう。…好き、だよ」
「え、好き?」
「そう、好き」
「俺のこと?す…好き?」
「もー!だからそうやって言っとるやん!何べんも言わすなばかぁ!」
何この羞恥プレイ!ふいと顔を逸らして、この真っ赤になってしまった顔をどうしようかと考えていたら、急に腕をひっぱられて、気がつけば謙也の腕のなか。あ、あれ、私、なんで、
「…めっちゃ、ほんまに、嬉しい」
「け、謙也」
「俺、もうこれで一生生きていけるかも」
「なっ何言うてんの」
「ほんま嬉しい、ありがとう、俺も好きや!」
ぎゅーっと謙也の腕の力が強くなる。すごく泣きそうで、でも我慢して、私も謙也の服をぎゅっとつかんだ。幸せすぎて、どうしようかと思うくらいで、胸の中がくすぐったいような感じがする。胸が、きゅんとした。
謙也、誕生日おめでとう、大好きだよ。
100317 謙也誕生日記念