財前がパソコンの電源をつけた。たまに思う。こいつテニスとかその顔の良さがなかったらただのオタクじゃないかと。まぁそんなこと言わないけどね。財前が私の横に座る。きっとパソコンがたちあがるまでだろう。ベッドにもたれるように座る私たち、財前がポッキーを食べだした。私も貰う。
「あ、ねぇねぇ財前」
「…なんや」
「この前借りた漫画、明日返すね」
「ん」
会話終了。ほんと口数少ないなぁ、財前は。もっと喋ってくれたっていーじゃん。けどまぁ、格好いいから許す。なんだろ、財前って格好よさですべてを許されてる気がする。なんだか不公平。
「あれ、もうポッキーない」
「今俺が持ってんので最後」
「私あんま食べてへんのに…」
「…………」
ぱく。財前がポッキーのさきっちょをくわえて、じっと見てきた。え、なに、私そんなに物欲しそうな顔してた!?そしたら、財前がくわえてない方のさきっちょを差し出してきた。
「…なに、これ?」
「くわえろ」
「え、」
「ええからくわえろ」
はいはい、もう。しょうがないからぱくりとくわえる。…え、と…何このポッキーゲームみたいな状態。ていうか、ざ、ざ、財前の顔、ち…ちちち近いんだけど、なにこれ私逃げていい?
ぽりぽり、財前が少しずつポッキーを食べ始めた。うわ、やばい、どうしよう、財前の顔がさらに近付いてくる。私の心臓はばくばくで、今にも破裂しそうだ。
「ね、ちょっと、ざ、財前、」
「黙っとけ」
有無を言わせない。言わしてくれない。ど、どうしよう、逃げたいのに動かない。緊張し過ぎて動かなくなった。それに、財前の目と目が合って、もう動けないよ。私はぎゅうっと目をつむる。なんだこれ、何か私だけこんなに緊張して赤くなって、財前は余裕みたいな顔をして、なんか、なんか、これ、不公平よ。
「…………可愛い」
ぼそっと小さく呟かれたことばを、私は聞いた。そして、え、とか思ってる間に財前はポッキーを辿って、がぶっと私の唇ごと噛んだ。軽くだから痛くはない、痛くはないけど、
「か、噛まんといてよ」
「うっさいな」
「うるさいってなんやねん」
「顔真っ赤で言われてもな」
「う、か、関係ないやろ!」
やっぱり、不公平だ!私はこんなに心臓がどきどき鳴ってるのに、財前はまるで余裕みたい。顔色ひとつ変えずにいる。私はこんなにも真っ赤なのに。
「…財前のあほめ」
「あほはお前やろ」
「ちゃうわ!なんやの、私、こ、こんなに好きなのに」
「…は?」
「私だけどきどきしとるみたいで、付き合ってんのに、私だけあほみたい」
そう言ってたらなんか泣きそうになったけど堪えた。そして、財前の顔見たら、あれ、なんか、財前…赤、い…?びっくりしてそのまま固まっていると、ばしっと頭を軽く叩かれた。え、なにいきなり!
「…やっぱお前あほや」
「え、な、なんで」
「お前だけちゃうわ、…俺かてどきどきしとんの」
「……うそ、」
「ほんまや。顔に出さんだけやっちゅーねん。言わせんな」
そしたら財前ったら、優しい顔で笑うから、私も笑った。なんだ、私たち、どっちもどきどきして、財前も私と同じなのかなって思ったら、なんだか胸がきゅってなった。愛しいってこういう感じ?
100307