私には、憎たらしい後輩がいる。スポーツ万能、勉強も出来る。けど耳にはピアスなんかしちゃって、不良みたい。いつも私をばかにして、鼻で笑う。たしかに私は勉強出来ないけど、たしかに私はばかだけど!なんでもさらりとこなして、涼しい顔して、ああ憎たらしい。なんて奴!けど、やっぱ、好きだなぁ。好きなんだ。気付けよ、分かれよ、ばーか。
「謙也さんおります?」
「あ?ああ忍足なら違うクラス行っとんのんちゃう?」
「ふーん、どうも」
なんて素気ない態度。憎たらしい!そんな財前は放っといて、私はジュースを買いに購買へ。その教室までの帰り道、廊下を走ってくる財前に目が合ったと思えば、なぜかこっちに向かって走ってきて、腕をつかまれ拉致られて。ちょ、私今りんごジュース飲んでるのに!紙パックだから飛び出ないように気をつけて、ふと後ろを見れば、これまたなぜか忍足が追いかけてくる。うまく状況が飲み込めないまま、走って角を曲がって、そこにあった理科室の中へ。ちょ、ちょっと、
「いきなり何すんねん!」
「うるさい、ちょお黙っとってください」
反射的に黙ると、廊下でばたばたと走っている音が、遠ざかっていくのが聞こえた。
「……行った?」
「多分行った」
ふう、とため息をついて、ずるずると壁にもたれて座った。財前もその私の横に座る。何だったんだ、今の。…は、ま、待て、私はなぜ拉致られた!
「その場におったから」
「そんな理由で…」
「それより俺、喉渇いた。これもらいますわ」
「えっ」
私のりんごジュース…なんて言う暇もなく、財前は私の手からひょいと紙パックを奪いとった。そしてごくん、口のなか。…あ、今、かん、間接ちゅー…。
「はいどうも」
「……あ、はい」
………沈黙。やばい、なんで、あんたがそんなことするからなんかこっちが気まずいやんか。どうしよう、なんでか恥ずかしい。私だけ赤くなって、恥ずかしい。理科室が暗くてよかった。
「……先輩」
「な、なに」
「…や、なんも…」
「なんやねんな…。あ、それよりなんで走ってたん」
「あー…朝練で先輩らが鬼ごっこやっとって…」
「あ、そう…」
こいつらも結構あほやなぁ。鬼ごっことか、いくつやねん。そう思うと、くすくす、笑いが込み上げてきた。あは、財前も参加してるんや、あはは!
「なんで笑ってんすか」
「いやだって…財前もそういうの、やるんやなぁって思って…あはっ」
「…やられたから仕返ししただけっすわ」
「ふふふっ」
さっきまで気まずかったのに、今では普通に話せる。ああ、よかった!
私は残りのジュースを飲もうと、口を付けた。
「…さっき、俺、」
「は?なに?」
「それ、飲んだやんな」
「え、」
財前がうつむいて、照れたように小さな声でそう言うもんだから、また私は恥ずかしくなった。あの、いつも涼しい顔をして、憎たらしいぐらい何でもこなす財前が、今、私の前で、そんな感じになっちゃって。ど、どうしよう、なんか、すごい今嬉しくなった。どうしよう、どうしよう。私、すごい好きだよ。財前のことが、好き。好きだよ。胸が締めつけられる。胸の奥がきゅーっとなった。想いが、好きがあふれる。
「ざ、いぜ…」
「先輩、」
「な、なに」
「俺、めっちゃ、好きやねん」
「…誰を」
「先輩を」
あ、ああ、ぎゅうって、今、痛いくらい、胸が痛いくらいだ。涙出そう。どうしよう、泣きそう。そしたら財前が少し遠慮がちに私の手を握るもんだから、ぽろり、私は堪えきれずに、ひとつ、涙をこぼした。想いに気付いてなかったのは、私も一緒だった。休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。私たちは動かない。私はこのまま、ずっと、ずっと時が永遠になればいいと強く願った。
100205 強気な女の子…?/(^p^)\