戦うことは怖くなかったはずなのに | ナノ



あなたは私を拾ってくれました。どこの誰かも分からない私を。何も知らない無知な私を。あなたは優しくしてくれました。愛を知らなかった私を。愛すら何なのか分からなかった私を。だから私はあなたのために戦うのです。


「いたた…」


お仕事は進んで何でもやった。何かをしなければ、頑張らねばならないから。何を?と聞かれれば、私は、皇子のために頑張るの、と答えるだろう。そして、ただお仕事をこなしていく。


「またお前…っ」

「わ、若様…」


誰にも見られないように、こっそり屋根から帰ってきたら、若様がいた。そんな顔しないでください。私は怪我をしても大丈夫ですから。


「…お仕事終えました」

「そんなことどうだっていい。またお前、そんな怪我…」

「私は、戦うことしか出来ません」


ただでさえ拾ってもらった身、ご恩はきちんと返さねばなりません。たとえ怪我をしても、どんなに嫌なお仕事でも、私は自ら進んで戦うしかないのです。


「何でお前はそこまでしてくれるんだ」

「…若様のために、です」


愛することを教えてくれたのはあなたでした。真っ暗な闇の中にいた私に、光を与えてくれたのはあなたでした。だから私は、私は、


「若、様…?」

「…お願いだ」


私の手を握って、若様は言った。手が、握られた手が熱い。どくんどくんと血が巡る。さっきまで冷えきった私の冷たい冷たい手は、あなたの手で温かくなって、生きてることを実感した。ひとりで戦うことは平気だったのに、今さら怖くなった。


「もうひとりで戦うな。怪我をするな」

「若様、」

「お前がいなくなれば、俺はどうしたらいい」


ぎゅっと握られた手は、とても力強かった。そして、温かかった。今さら怖くなった。死ぬことが怖くなった。若様のためになら死ねる。そう思ってたのに。


「…わ、若、様」


一生、若様の側にいたいよ。そう思うと、目の前が滲んだ。大粒の涙が、ぼたぼたと落ちた。傷だらけの体に若様のことばが染みる。痛いなぁ、痛いよ。傷が痛むのか、胸が痛いのか、分からないよ。



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