湿ったアスファルトの匂い、ああ、雨の匂い | ナノ



「あ、雨」


ぽつぽつと降り始めた雨。朝から曇ってはいたけど、降るとは思わなかった。だから傘も何も持っていない。
どうしよう、とりあえず雨をしのげるところ!と、いうわけで、近くのお店の屋根で雨宿り。あーあ、仕事で街を視察中なのに、帰り遅くなったら怒られるかなぁ。仕方ないよね。でも怒られるのは嫌だなぁ。傘でも買おうか。あ、だめだ、お金持ってない。財布置いてきちゃった。


「…誰か迎えに来てくれないかな」

「お嬢ちゃん、店の電話使うかい?」

「あ、そうします」


お店の店主さんが優しい人でよかった!お礼を言って、軍に電話。とりあえず大佐に繋げてもらおう。


「もしもし、大佐。雨が降って帰れません」

『…今どこにいる』


それからしばらく待つと、大佐が迎えにきた。あれ、車じゃないんだ。大佐は傘をさして歩いてきた。私は店主さんにまたお礼を言って、大佐の傘の中にひょいと入る。それからふたり、歩きだした。


「…大佐、すみません」

「まったくだ。金ぐらい持っていけ」

「ごめんなさい」


ぱらぱらと降る雨、そのせいかいつもと違うように見える風景。肩が大佐と触れた。なんだかどきどきしてきた。やばい、なんでだろ。胸がぎゅってする。雨の音が響く。周りの騒音が聞こえなくなる。なんか、今、この時、世界にふたりだけな感覚がした。そんなの、あるわけないのに。


「た、大佐」

「なんだね」


よく分からなくなって、大佐を呼んでみた。あれ、何で呼んだんだろ、分かんないや。でも呼んだままはいけないから、とりあえず必死に話を考えた。けど何も思いつかなかった。頭まっしろ。


「……怒ってますか?」

「何に対して?」

「…わ、私に、対して」


こんなばかなことで大佐に迷惑をかけた。それが急に怖くなった。だからなのか、勝手に口から出た言葉たち。どうしよう、どうしよう、


「怒ってなんかないさ」

「でも、私、迷惑かけて…」

「仕方ないから君との相合い傘でチャラにした」


うあ、なんか、どうしよう、私、大佐のことすごい好きだ。好きなんだ。今気が付いた。そう思ったら、胸がさらにぎゅうってなった。
大佐の服とか、髪の毛が少し濡れている。水も滴るいい男ですね、って、ついつい無意識に言ってしまった。あとからすごい恥ずかしくなった。


「君も濡れていつもより大人っぽいな」


大佐が目を少し細めて、微笑みながらそう言った。どくどく。心臓の鼓動が早くなる。
沸騰しそうだ。



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