「…ど、どうしよう…」
先程からロイさんの居る司令室の前を行ったり来たりしている。もう何分間こうしているのだろう。自分の手に握られた包みを見ては溜め息を吐く。はぁ…。
――ガチャ、
「……あ、」
「……え」
突然開かれた扉。出てきたのは何ともタイミングが良いのか悪いのかロイさんだった。……え、えええ!
「名前じゃないか、どうし、」
「っ、あ!い、いえ別に!偶々通りかかっただけで…!」
ちょ、何言ってんの私の口!違うでしょ何分も前から居たじゃん!でも体はいうことを聞いてくれない。ど、どうしようどうしよう!突然ロイさんが出てきたもんだから心の準備とか何も出来てない。手元にあるものを渡す時に言う台詞だってちゃんと考えてたのに頭の中は真っ白だ。
「……それ、」
「っ、え?」
「それはなんだね?」
「…あ!これはその…っ」
ロイさんが指さしたのは私の胸の前で握られている物。これは今朝早くに起きてロイさんへ作ったお弁当だ。料理は苦手ではなく、寧ろ得意な方なのだが、これは私の勝手な判断で作ったもの。直接ロイさんから作って欲しいなんて言われてないからもし迷惑だったらどうしようと思っていた。それに今はまだお昼前。こんな早くに渡したくはないが、何せ午後からは重要な仕事が入ってきてしまい、お昼丁度には渡せなくなってしまった。
「お弁当、なんですけど…」
「…誰の?」
「え!その…ろ、ロイさん、に…と思いまして…」
「私に?」
うわああ!い、言っちゃった!ちらとロイさんを見ればポカンとしている。そりゃそうだよね、いきなり渡されても…。それに、まだ昼前だし。ああ、やっぱ止めとけば良かった…!お弁当を握り締め視線を下に落とすとすっと目の前に手が伸びてきた。
「…?何ですか?」
「それは私の為に作ってくれたのだろう?」
「え、ええ…。でも、」
「くれないのか?」
「……へ?」
然も当然そうに聞いてくる。え、でもこれは…。
「これは…私が勝手に作ったものですから…」
「くれないのかね?」
「え…」
「私は今朝から何も食べていなくてね」
ペコペコなんだ。微笑みながらそう言い、再度くれないかと言われた。
「丁度何か食べようと思っていたのだが…」
「い、いいのですか?」
「勿論。まぁ、君が許可してくれればの話だがね」
「ど、どうぞ!」
許可なんて、そんな!急いでロイさんにお弁当を渡せば笑顔で有難うと言われた。…わぁ…、かっこいい。ロイさんの笑顔に見惚れていると、ロイさんは司令室のドアを開けたまま入っていった。あれ、閉め忘れ?そう思いドアに手を掛けるとロイさんに止められた。
「待ちたまえ」
「え?」
「弁当を貰っておきながらなんだが、お茶を煎れて貰えないかね?何せ今は誰もいなくてね」
「あ、はい!」
わああ、ロイさんと二人きりなんて…!どうしよう、嬉しすぎる!ルンルン気分でお茶を煎れ、ロイさんの机へと運ぶ。ろ、ロイさんが私の作ったお弁当を食べてる…!
「あ、の、ロイさん」
「ん?」
「あの、お味の方は…どうでしょう」
そこだ。一番気になっていた。味は悪くはないと思うが、ロイさんの口に合うかどうか…。お盆を持つ力を入れ、ロイさんをじっと見詰める。
「勿論、美味しいよ。有難う」
「ほ、本当ですか!良かった〜」
一気に力が抜ける。はぁ良かった。もし合わなかったらどうしようかと。ああ、今日後半日だが、頑張れそうだ!もう少しロイさんと二人で居たかったが、食事をしているのを見られ続けられるのも気まずいだろう。そう思い、体を反対に向けた瞬間、ロイさんが口を開いた。
「やはり、好きな女性の手料理というのは実にいい。また、作ってきて貰いたいのだが」
「え……」
「駄目かね?」
振り返ると、美しい笑顔で此方を真っ直ぐに見詰めるロイさんの姿。そ、それって…
「…駄目かね?」
「っ、あ、え、と、も、勿論…っ」
駄目な訳、無いじゃないですか。そう言えば、ロイさんは立ち上がり私に近づき、そっとおでこにき、き、き…!
「…可愛い」
「…は、恥ずかしいです…っ」
どうしよう、ロイさん。今、幸せ過ぎて明日のお弁当が思い付かないです。
END