嬉し泣き | ナノ





司令部の門の外で待ち合わせ、
寒そうにしている恋人の手に自分の手を絡めて、


今日も忙しかった、なんて、呟けば、ほっとしたように振り向いて、



「お、おかえり」


「はいただいま」


「お疲れ」


「ん」



ゆっくり歩きだす
ご飯食べるの?なんて、極めてドライな彼女、でも本当は張り切ってることだって知ってる、



今日は久々のデートだし、君の好きそうな、落ち着いた雰囲気の店を予約してあるよ、



「気が利くんだね」


「デートだからな」



「……ふうん」


「何」



「ううん」



「少し遠いし、車で行くか」


「歩いてこうよ」


「…寒くない?」


「寒いけど」


「じゃあやっぱり車に」


「あ、歩きたいの!」


何を照れてるんだか、少しだけ赤くなってムキになる、


でも、まあ、奇遇だな、私もだ、どうしてか、ふたりでずっとてくてく歩いて、とりとめのない話をしたり、星がきれいだとか、そういうことでもいい、
とにかくふたりでのんびり歩きたい


名前といると、特にこうして疲れた夜は、そういう気分になる



「寒かったら云うんだぞ」


「だから今も寒いんだって」



「……車に乗ろう」



「あ、歩いてればあったかくなるよ!」



「…君が風邪ひいたら」


「だいじょぶだもん」


「だいじょぶじゃない」


「やだ!」


「…どうしてそんなに歩きたがるんだ?」



「そ、それは」


「………それは?」


「なん、何だっていいでしょ」


「云わないと車だなぁ」



「!」



目を泳がせて、赤くなって、どうせ頬を触ると振り払われるからしないが、
熱いんだろうな、手はこんなに冷たいのに、



「だっ、だって、…だって、ね、」


「ん」



「ロイと、…手、せっかくつないでるし、あ、歩きたいの、」


「……?」


「とにかくロイと歩きたいの!」



「……可愛い」


「!」



ぽつんと呟く、それだけで動揺して、
本当に可愛い


「じゃあまあ、歩くか」


「………うん」



「これしてなさい」


「…ロイは?」



「何だ、一緒に巻いてくれるのか」


「巻きません」



「ははっ、冗談だ」



マフラーをかけてやる、ちょっとだけ嬉しそうにして、
小動物か
可愛すぎる
犯罪だ


「…優しいんだねマスタング大佐」


「優しいマスタング大佐がお好みかね?」



「〜〜っ…、全っ然、強引な方がいいし」


「ほう」



私のマフラーをぐるぐる巻いて、ご満悦そうな彼女に目を細める、
全く素直じゃない
素直じゃないんだが、そこが好きだ、



「さっきから何を照れてるんだ君は…」


「て、照れてない!」


「そんな真っ赤になって云われても信憑性がありませんよ」


「……ぁ…赤くなんてないもの」


「赤いよ」


「ロイが」



「ん?」



「ろ、ロイが優しくするから悪いんでしょ!バカ!」


「…優しいよりも強引な方が好き、とか云ってなかったか」



「どっちも好きだもん」


「……好き?」



「!」



はっとして口を押さえて立ち止まる
口元が自然と、緩む、



「好きなのか」


「………」



「名前」


「……っ〜〜…」




「私が好き、なんだろう?」



「ぅ……っ…うるさい」



「ふふふ」



「な、何だよぅ、好きで悪いかよぅ!バカ無能!知らないからね!」




ぱたぱた走っていく名前、



こらこら、ゆっくり歩きたいって云ったのは君だろ、
くつくつ、込み上げてくる笑いは、きっとこの幸福感がそうさせるんであって、



忙しい仕事の疲れも何もかも、
まったく、
君を見てると吹き飛ぶよ、名前、







人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -