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「じゃあ、ここでランチにしようか。パンがあるからサンドイッチでも作るつもりだけど、どうかな?」
「賛成!木の実いるわよね、あたし採ってくる!」
「あ待てよー俺も行くって!」
「うーん悪いけどアイリスにはこっちの準備をして貰いたいな」
「ええー、なんでよー」
「お願いね」
「もう、しょうがないわね」







「ご馳走様。美味かったぜデント」
「それはどうも。ああ、食器は洗っておくから置いといて構わないよ」
「サンキュー。じゃ、行くかピカチュウ!」
「ピカ!」
「ご馳走様ー!さてと、あたし達も行こっか」
「キバ!」
「あ、アイリス。食器洗うの手伝ってくれない?」
「うーん…わかった。キバゴちょっと待っててね」







「きゃーっ!可愛い!ねえサトシ君あっち行こ!」
「お、おいベルそんな引っ張るなよー」
「あはは、2人とも子供ねえ。あたしは先にポケモンセンターに行ってくるね」
「街を見回らないのかい?」
「まあ、今必要な物とかないし…。特に見回る所もなさそうだし」
「なら買い物に付き合ってくれるかな」
「…まさか女の子のあたしに荷物持たせる気じゃないでしょうね」
「そんなことはしないよ。もし一緒に行ってくれたら、今後のメニューをアイリスに決めて貰おうと思ったんだけどなあ」
「えっ本当!?行く!」
「決まりだね。さ、行こうか」



こうやって僕はいつも、アイリスとの時間を創り上げてきた

無理にでも口実を作って、他人がいない時なんかにその口実を使ってアイリスを誘う。2人きりになって過ごすために。
たまにはさっきみたいに簡単なワイロ、とは嫌な言い方だけれどもそういったものを使ったりもした。断られそうになっても粘って、ナチュラルに誘っていく。最近こういうの増えてきたな、余程一緒に居たいんだ、と自分のことだというのに呆れてしまう

そして今買い物が終わり、僕達は店を出た。買い物中アイリスがメニューをうんうん唸りながら考えていたものだからそんなに悩む事なのかと問うと、考えてみればデントの料理って何でも美味しいからとくに決める必要なんてないのよね、と言って笑った。うん、やっぱ本当に惚れた子の笑顔はたまらなく可愛いと感じるんだなと思いつつ、何でも美味しいと言ってくれて、心内の喜びが抑えきれないくらい嬉しかったりとなんともハッピーなテイストがした。口実を作ってでも誘って良かったなと改めて思う

「ふー、ちょっと歩き疲れたかも」
「結構色んな所に買いに行ったしね。あそこのベンチで少し休憩しようか」

わかった、と言いながら早く休みたいのか小走りでベンチへと向かい、溜息をつきながら力を抜いて座った。
僕はすぐ側にあった自販機で飲み物でも買って休もうと思い同じのを2本買った。座っているアイリスに渡すと嬉しそうに受けとり早速フタを開けて飲んだ。僕もフタを開けて2、3口ほど口に含んだ。喉が潤って気持ちが良い

「デントって、さ…なんでいつもあたしにだけこうやって手伝わせてるの?」

アイリスが缶の方を見つめながら聞いてきた。なんだか落ち着かないのか缶をべこべこさせている。まだ飲みかけのため低い音が出ていた

今の言葉には少し焦った。サトシがいるのにアイリスばかりに頼むのはやはり不自然だったかと今更思う。好きだから、一緒に居たいからだなんて理由を吐ける訳もないのでぱっと考え付いた理由の方を吐く

「…女性の方が器用だからね。それにもうそろそろアイリスは将来のためにも家事の仕方を覚えた方が良いと思うし」
「ふうーん…」

適当に納得したような返事が帰ってきた。でも、どこか複雑な声の調子。缶を見て俯きながら言ったから余計にそう感じる。

(………)

途端に嫌な予感がよぎる。もしかして、アイリスは実は面倒くさいのではないか。僕がしていることはよく考えてみればアイリスを振り回しているようなものだ。彼女だって自由に、1人でいたい時などあると思う…僕はそれを、その時間を自分の都合で潰してしまっている。なんて自分勝手な奴なんだ僕は。アイリスは優しいから人のお誘いを快く引き受けてくれる。本当に僕の方が子供で、アイリスは子供じゃないのかもしれない。

嫌われたくない。そんな風に、思われたくない。

「ごめん」
「え?」

「君の時間を奪ったりしてごめん。ちょっと最近勝手が過ぎてるよね、僕」

これからは気を付けて控えめにするよ、あはは、と空気が暗めにならないように明るく振舞ってみる。効果はなかった。眉を潜めて困った顔をしているアイリスを見て胸の辺りがずきりと痛む。きっと今かなり情けない表情をしているに違いない。
なんかもう居ても立っても居られなくなり、僕はベンチから立ち上がった。

「さ、そろそろ帰ろうか。サトシ達もポケモンセンターに向かってる頃だと思うよ」
「──っ、待って」

早くこの情けない表情を隠したくて歩き出そうとした瞬間、背後からアイリスの慌てるような声がした。くん、と詰まるように歩み出そうとした足を止める。

「あたしは…、あたしは!苦手なこととか頼まれて上手くできるか不安だったけど、別にデントのこと勝手な人だなんて思ってないから!」
「…………」
「それに、その、……。頼ってくれてるん、だよね。あと今日みたいに誘ってくれて、嬉しい、というか……」
「……アイリス…」

勢いよく立ち上がり、必死に僕の言葉を否定した。顔を俯かせてもじもじと指を絡めているが、耳まで顔が赤くなっていることがわかる。
これはつまり、誘ってもいいということだろうか。さっきまで胸の辺りが痛んでいたけれど急に晴れたみたいに胸から痛みが引いた。
必死に否定するアイリスが愛しくてたまらない。痛みが引いたばかりだというのに、きゅう、と締め付けられるような別の痛みが胸を満たした。今すぐに彼女を抱き締めてしまいたくなる衝動が身体中に走る。

…あれ、そういえばさっき彼女は僕に頼ってくれている、と言ってなかっただろうか。

「…あたしはそういうの気にしてないし…今日だってすることなくてポケモンセンターに行こうとしてたんだから、」

頼る、か。彼女が不器用だからとかじゃないけど、違う。そんな綺麗な理由で誘ったんじゃない。

「当然、誘ってくれて嬉しいって思うの」

僕は君と、2人きりでいるために誘うんだよ

「……えと、それに、デントといるとやっぱ楽しい、し…」

そう言ってしまえばもうアイリスのことが好きだということがわかってしまうだろうな。いっそのこと伝えてしまおうか。

「〜〜っあー!恥ずかしっ!無し、さっき言ったこと無しにして!」

僕がずっと黙ってたから一方的に喋る形になったのに恥ずかしく思えてきたのか、振り切るようにずんずんと僕の前を歩き出した

「ほら!行くわよデント!」

…もう駄目だ、僕としたことが、我慢がきかない。

「サトシ達が待ってるんで、」

言い終わる前に後ろからアイリスの腕を引いてバランスを崩させ、腕の中に閉じ込めた。さらに愛しさが溢れ出て、我慢などできず、ぎゅう、と腕に力をこめる

「少し違う所があるよ、アイリス。僕は君を頼って色々手伝わせたんじゃない」

勿論助かったんだけれど。

「2人きりで居たいからなんだよ。少ない時間だけでもそうしたかったくらいに」
「でん、と」
「もうわかったかな?僕はね、」

彼女の紅く染まった耳元に口を近づけて、囁く。するとアイリスが僕の服の袖をぎゅっとつかんできた。
ここまできたらもう、歯止めがきかない。

「アイリスのことが」


好きなんだ。



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『cerTainly』のこまこめさんから頂きました!
デンアイはやっぱり幸せなのがいいですね!
こまこめさんありがとうございました!



















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