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僕はジムリーダーに、ベルはアララギ博士の助手になるべくお互いに修行に励んでいたので、あまり連絡を取り合うことがなかった。そんな中、実に2年ぶりだろうか。僕がジムリーダーに就任したことをどこからか知ったベルから久々に連絡が来たのだ。互いに新米ではあるが夢を叶えたということで会わないか、と。

久しぶりの幼なじみの様子も気になるし、僕は気軽に会う約束をしてしまった。しかしジムリーダーになったことで予想以上に仕事が忙しくなり、会う約束の日になっても全く時間が空くことはなかった。ベルも大人になったのか昔のように怒ることもなく仕方ないよと了承してくれたが、その後も悉く約束を破ってしまってもベルは変わらず笑顔でいて何も言わなかった。

その後ジムが開設され挑戦者と話している中で、偶然であるが漸く懐かしい幼なじみの顔を見ることができた。素直に喜ぶ僕に対してベルは一瞬だけ笑顔を見せたあと、思い出したかのようにみるみる頬を膨らませ僕から顔を反らした。会話をしている内もどこか素っ気なく、理由がわからない僕に更に不機嫌になっていくベル。その間にも挑戦者は次々と並び久々の再会も数分だけとなってしまった。

その日の仕事が終わった時には外はすっかり闇に包まれていた。ジムリーダー就任後初の仕事ということもあってか、体は疲れきっていた。重たい足を上げジムの扉に手をかけ外に出る。


「お疲れ様、チェレン」


聞き慣れた声のする方に振り向くと、ベルが仁王立ちしてこちらを見据えていた。予想だにしなかった本日2度目の再会に驚く。ベルは1度目と変わらず不機嫌なままだった。


「改めて、ジムリーダー就任おめでとうチェレン」
「ベル、どうしてここに?しかもこんな時間に」
「もうっ久々に会ったんだからそんな細かいこと気にしないの!」
「ああ、ごめん。ありがとう」
「全くチェレンってば…会えなくて本当はすっごく寂しかったんだからねっ」


そう言って勢いよく抱きついてくるベルによろけながらもなんとか姿勢を保つ。理由はこれだったのか。僕が約束を破ってばかりでいたから。ベルは笑っていたけれど、申し訳ないことをしたな。


「もう待ちきれなくて会いに来ちゃったよぉ」
「ごめんねベル」
「あたしと仕事どっちが大事なの?」
「そ、れは返答に困るな…」
「えへへ、冗談!」
「そんな冗談は勘弁してくれないかい…」


他愛もない会話。2年間の空白を埋めるかのように沢山話をした。ジムリーダーになる為の修行の旅。その中でどんな人やポケモンと出会い、どんなことを感じたか。アララギ博士の助手になってからの初めて尽くしの経験。持ち前のドジ癖のせいか失敗ばかりの毎日だったが充実していた日々。時には昔の旅のことも思い出しながら時間を忘れて僕らは語り明かした。


「チェレン大きくなったねぇ」
「そうかい?自分ではよくわからないな」
「うん、本当に大きくなった。だって昔はあたしとそんなに変わらなかったもん」


確かに以前までは僕の目線には丁度ベルの顔があったはずなのに、今では視線を下ろさねばベルとは目が合わなくなった。ベルが徐に僕と手を合わせる。もう第一間接は悠に越えており、2年前に繋いだきりのベルの手がとても小さく思えた。改めて2年という月日の流さを感じた。


「チェレンもやっぱり男の子なんだねぇ」
「今更何を、当たり前だろ」
「トウヤとはどっちが大きいかなぁ?」
「…さぁね」


トウヤ、そしてニナ。僕らの幼馴染み。2年前の事件後にニナがNを探すと飛び出し、トウヤはニナが飛び出してから何も言い残すことなくいつの間にか僕らの前から姿を消した。それからもうずっと連絡が取れないままだ。何処で何をしているのか、無事にやっているだろうか。心配は尽きない。


「…会いたいね」
「…あの2人のことだから、その内ひょっこり帰ってくるよ」
「…そうだね!」


いつか過ごした4人で笑いあった何でもない日々。嘗ての僕たちの日常。別れてしまった各々が選んだ道が、再び重なり合うことを切に願う。






かの日を乞う


20120827
















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