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蝉の声が鳴り響く蒸し暑い季節。世間は夏休みで海に山にと皆遠出をしている中、ここ祓魔塾の生徒は普段となんら変わらず教室で黙々と授業を受けている。基本的な医療や戦術は勿論、詠唱や騎士など各々の得手不得手な分野も満遍なく勉強し、少しでも早く一人前の祓魔師となるための知識を備える。
毎日休みなく続く訓練は勝呂や子猫丸のように特別祓魔師になりたい理由が無い廉造にとって、苦行と相違ないものだった。退屈凌ぎにシャーペンを回しながら何度目かもわからない欠伸を噛み殺す。早く終われと祈り瞼が閉じそうになった所で漸く本日の授業終了を告げるチャイムが響いた。教師がさっさと教室を去る姿を見届け椅子から立ち上がり大きく伸びをする。
「っはぁ〜今日も疲れたわぁ」
「最近ほんまに暑くて参りますなぁ」
「おいはよ帰るでお前ら」
「はいはい坊」
早くこの汗まみれの体を洗いたい。教室のクーラーの効いた涼しい空間から出るのは名残惜しいが部屋までの辛抱だ。さっさと帰宅の準備をして出ていこうとした時、ノートとにらめっこしている出雲が目についた。もう授業が終わったというのに真面目なことだ。
「あ〜俺用事思い出したわ!坊、子猫さん先帰っといて!」
「あぁ?どうしたんや志摩の奴」
「さぁ…」
廊下を暫く歩いてからも先程の出雲のことが気になり、適当に理由をつけて勝呂と子猫丸を先に帰らせ志摩は教室へ小走りで戻っていった。
教室に着くと先程と変わらず机に向かっている出雲以外には誰もおらず、しんと静まりかえった教室でカリカリとノートにペンを走らせる音だけが耳に響く。
「いーずーもーちゃん!勉強熱心やなぁ!」
「あんたまだいたの。帰ったんじゃなかったの?」
「出雲ちゃんが一人で寂しそうやったから戻ってきてん!」
「バッカじゃない」
一瞬だけ視線をこちらに向けただけで出雲はすぐに机に向き直る。その後は廉造がいくら話かけても見向きもせず、予想通りの反応ではあったが少し悲しい。暫く沈黙が続き再び教室は静まり返る。いい加減居づらくなってきた廉造が帰ろうかと鞄を掴みかけたところで、「ねぇ」という澄んだ声が耳に響き、廉造は手を止めた。
「あんた、朴のこと好きなの?」
「…へ?」
「か、勘違いしないでよ!ただ前一緒に出かけてたの見たとき楽しそうだったから…そう思っただけよ!」
予想だにしなかった質問に即座に返答ができず、廉造は少しだけ顔を赤らめた出雲を凝視した。まさか出雲が自分に、しかもこんな話題を振ってくるとは思ってもみなかったので、自然と頬が緩む。
「なになに出雲ちゃんどないしたん?もしかして俺のこと…」
「そん、なわけないでしょ!ただあたしは朴の友達として知っておかなくちゃいけないと思っただけよ!」
「照れんでもええのに〜」
「しつこい!もういいわよ!勉強の邪魔になるからどっか行って!」
必死に否定しようと声を荒げても顔が真っ赤ではまるで説得力がない。しかしこれ以上追求すると本気で怒られそうなので抑えるが、口角までは下げられず結局出雲に怒られてしまった。
あの朴との買い物の日からずっと考えていたのだろうか。純粋に親友である朴のことを思っての質問であっても、出雲が自分のことを少しでも考えてくれたことが嬉しくて、いつまでも口角は上がったままだった。
ある日の放課後
20120630
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例のアニメのお話のその後