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「燐、燐ってば!」
「な、なんだよ!」
「歩くの早いよ!」
「しえみが遅いんだろ!」


放課後祓魔塾に行く途中偶然燐に会い一緒に行くことになった。
燐と並んで歩くのは何度かあったが、男の子の歩幅とはこんなに自分とは違うものなのかと暢気に感動していたのも束の間。しえみが話しかけてもずっと落ち着きがなかった燐は度々足早に歩き、それに追いつこうと走るのを何度か繰り返しているうちに、元々体力はあまりない方の彼女はすぐに息が上がってしまった。

そんなに早く祓魔塾に行きたいのだろうか。もしかしたら自分といるのが嫌だからなのかもしれない。確かにまだ知り合って間もないのに、いきなり一緒に行こうなんて馴れ馴れしかったかも。呼びかけてもすぐに元の早さに戻る燐に次々と嫌な考えが過る。


「もう、燐のば…きゃっ!」
「しえみ!?」


すっかり考え込んで歩いていたせいか注意力が散漫になり、何もないところで蹴躓いてしまった。このままでは地面にぶつかる。反射的に目をぎゅっと瞑り受け身を取る。一瞬の真っ暗な視界の中でも考えることは先程の続きで。友達同士なんて思っていたのは私だけだったのかな。勝手に浮かれて勝手に落ち込んで、馬鹿みたい。

それにしても、いつまでたっても衝撃が来ない。前にいたはずの私の名前を呼ぶ燐の声が凄く近いような気がする。それどころか体が暖かい何かに包まれている感じさえする。恐る恐ると目を開け真っ先に視界に入ったものは制服のシャツ。顔をあげると燐の顔があった。燐の表情は真剣そのもので、ずっと大丈夫かと聞いてくる。自分を包む大きい男の子の体、力強い腕。ゆっくりと理解する。ああ、燐が助けてくれたんだ。

数秒程そのままでいると、自分達の状況を理解したのか燐はみるみる顔が赤くなり即座にしえみから離れる。先程まで感じていた彼の体温が急になくなりなんだか寂しくなった。どうしてそんな気持ちになるのかはわからないが、一つ確信は持てた。やっぱり、燐は優しい。初めて会った時から何も変わらない。


「…ありがとう、燐」
「べ、別に!今度から気をつけろよ…ってしえみ!?」


お礼の気持ちと、せっかく燐が近くに来てくれたから離れたくないのとで彼の手を強くつかむ。理由はわからないけれど、燐とこうして触れあっていると安心する。暫くは慌てふためいていた燐も観念したのか同じ歩幅で歩いてくれて。相変わらず顔は反らしながらだけれど、それでも嬉しくてしえみは更に強く彼の手を握った。









温かくてなんだか安心して愛しくて


20120409 / 確かに恋だった

















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