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志摩廉造は同じ祓魔塾の生徒である神木出雲が好きだ。しえみのように柔らかい女の子も大好きだが、それとはまた違う恋愛感情としての。いつからなんてわからない、気づいたら好きになっていた。なんて少女漫画なもので自分でも恥ずかしい。とにかく彼女が好きで何度も告白したのだが、女好きという性格のせいか潔癖の彼女は見向きもしないし本気だとも思われていない。重たいものを運んでいる時など持とうとしたらスッパリ拒否されて、頼るのも嫌らしい。


「なぁ出雲ちゃん、俺のこと嫌いなん?」
「そうよ、あんたみたいな軽薄な男大っ嫌い」
「酷いなぁ俺はこんなに出雲ちゃんのこと好きやのに」


大嫌いと目の前で言われて傷つかないわけがない。しかし廉造はそんな気は微塵も見せずに何時も通りの薄っぺらい笑顔を浮かべる。環境のせいか自分の感情を抑え込んで生きてきた廉造にとってもはやこれは無意識に行っているものだった。単に重い空気が苦手だからというわけでもあるのだが、そのおかげで真面目に出雲に告白もしたことがない。もしかしたら真剣に告げれば聞き入れてくれるかもしれないが、いかんせん難しい。


「とにかくいい加減にしてくれない?あたしもう行くから」
「え〜つれへんなぁ、もっと話聞いてぇな」
「ふん」


引き止める廉造を意にも介さず宣言通り出雲はスタスタと行ってしまった。一人になると途端に静まり返る教室に急に落ち着かなくなる。静寂は性に合わない。皆や、出雲がいれば楽しい教室も人がいなければこんなにも寂しいものなのか。廉造は耐えきれずそこから逃げるように飛び出す。名前を呼びながら廊下を走り回り出雲を探す。彼女ともっと話したい、相手にされなくとも一緒にいたい。曲がり角で視界の隅に出雲を捕らえたところで思わず一時停止する。目の前には出雲と、同じく祓魔塾の生徒である奥村燐。


「あ、よぉ出雲!重そうな荷物だなー、持つぜ?」
「か、勝手に名前で呼ばないでよ!あと結構よ!」


口は喧嘩越しだが、名前を呼ばれて満更でもない出雲の様子に廉造は音も立てずにその場を去る。彼女が燐に気があることは勿論知っていた。自分や勝呂と話している時とは明らかに違う雰囲気なのだ。ずっと見ているからわかる。
しかし同時に燐がしえみを好きなことも廉造は知っていた。そして恐らくしえみも燐のことが好きなのだろう。二人の間には他人を寄せ付けない空間めいたものがあるのだ。だから廉造は出雲の気持ちを知っていても諦めることはなかった。最低な男だとは重々承知している。

頭を掻きながららしくないと自嘲気味に笑い廉造は誰もいない廊下を歩いた。









血がにじむ度きみの夢をみた


20120407 / bamsen
















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