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有名な作家や芸術家は昔から何処か変わっている人が多いような気がする。一般人には皆目理解できないものを美しい素晴らしいと称し、特に絵画等はその道に優れた者にしかわからない良さがあるらしい。私たち素人が美術館に行って飾られた名品なのであろう数々に感嘆するのは、既に頭の中でそれは価値あるものだと脳が認識しているからだ。でなければこんな訳のわからない絵画を見せられても何の感慨も湧かないし、一体どこをどう見たらこれが美しいと呼べるのか。


「全くわからないわ、アーティ」
「えー、こんなに素晴らしいのに?」
「芸術家の考えてることなんて多分一生理解できない」
「勿体無いなぁ」


勿体無いと言われても理解できないものは仕方ないし特に残念でもない。毎日毎日よく飽きもせず画板に集中していられるものだ。時には一日中部屋に籠り出てこない日もあるようだ。感性の違いというのも中々に深い溝らしい。


「カミツレもモデルなんだし芸術について少し勉強したら?」
「嫌よ。なんでモデルだからってそんなこと」


モデルも考え方によっては美術品の一つなのかもしれない。ファッションデザイナーという芸術家(と呼称しても良いのか定かではないが)から着飾られ愛でられ、誰からも綺麗だと賞賛されるところが似ている。自分自身が美術品というのは些か驕りすぎるか。


「んー中々いい構図が浮かばないよ」


すらすらと筆を進める彼の手も今日は顎に添えられていた。スランプは特に珍しいことではないので、言葉にならない音を出しながらうねるのも見慣れたものだった。また彼の原点であるシッポウに行くのだろうか。しかしアーティはじっとしてインパクトがどうのぶつぶつと呟くだけでその場から動こうとはしない。常ならばすぐに向かうのに、珍しいこともあるものだ。


「よし、カミツレ、絵のモデルになってよ!」
「は、なんで」
「悩んだ時は普段描かないものを描くようにしてるんだ。僕人物像ってあんま描かないし」
「別にいいけど」


仕事で写真を撮られることはよくあるが絵のモデルになることは初めてだ。高速で様々なポーズを要求されるファッションモデルとは違って、絵は一定のポーズを長時間保たなければならない。想像以上に辛いもので、どちらかと言えばじっとしているのは苦手なカミツレは早くも音を上げそうだった。安易に引き受けなければよかった。


「ところで、何で私なの?」
「絵のモデルのこと?近くにいたのがカミツレだったからかな」
「あらそう」
「でもやっぱりカミツレでよかったよ。綺麗だから描いてて楽しい」


美術品に向けて綺麗だなんだと褒め尽くすのは目にしていたが人に対しては見たことはなかったので、まさか自分に向けられる日が来ようとは。素直な感想を述べられて少し気恥ずかしくなり怒られるのを承知で彼から顔を反らした。








良くも悪くも愛まみれ


20120301 / 告別

















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