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思い返せばトウヤが笑ったところをここのところ見ていない。微笑ならあるのだが、満面の笑顔がない。それに気づいたのは本当に最近で、幼馴染みのことなら何でも知っていると自負する自分が気づかなかったことが許せず、思い立ったら即時行動がモットーのニナは彼の家に上がり込み出会い頭にトウヤを押し倒した。

押し倒されたトウヤはというと、突然のことなので勿論受け身も取れずもろに後頭部を打ち付けたがニナはお構い無しに話を切り出す。


「笑え」
「何、藪から棒に。意味がわからないんだけど」
「とにかく笑え!」
「いててて引っ張るな!」


昔はよくチェレンやベルと一緒に他愛もないことをして笑い合っていた。子供っぽく豪快に、無邪気に。何時からなんだろう。トウヤがみんなの輪から離れていったのは。距離を置かれているようで酷く不快だ。付け加えて彼の得意のすまし顔にも苛立って思いきり頬を引っ張ってやる。


「何なんだよ一体!」
「トウヤが笑わないから!」
「はあ?」
「トウヤが最近ずっと暗い顔してるから、あたしから離れていきそうだから、それが嫌なの!」


感情のままに思いぶつけ、暫しの沈黙。トウヤは頭を掻きながらため息を一つ溢す。そして自由な腕をニナの背中に回し自身に引き寄せ、子供をあやすように頭を撫でた。その行動の意図がわからずニナが何事か言う前に遮るようにトウヤが口を開く。


「俺は何処にも行かないよ。だから安心しろ」
「…本当に?」
「うん、大丈夫大丈夫」
「…子供扱いしないでよ」
「俺たちまだ子供だろ?」


安心したのかニナは大人しく彼の胸に顔を埋めた。トウヤはうまく話を反らせたことに心の中で密かに安堵する。笑わないんじゃない、笑えないのだ。彼が彼女に対して抱いている感情は、幼馴染みに対するものではない。関係を壊したくない、それなら今の幼馴染みのままでいい。だからこそトウヤは己の気持ちを悟られないよう感情を圧し殺し続け、そうしていつしか心から笑うことができなくなってしまった。ニナの笑顔が見れるなら、彼女から笑顔が消えるくらいなら、自身の想いを殺し続けるなど容易なこと。


「トウヤ、何処にも行かないでね。ずっとみんなと一緒だよ」
「うん、わかってる」


チェレン、ベル、ニナ、そしてトウヤ。幼馴染みが四人でいられるのは、果たして何時までのことか。







どうしようもなく臆病な両手


20120204 / bamsen



















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