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さくさく、さくさく。



季節は夏が過ぎたので、砂浜はさっきまで太陽が出てたので暖かくて、海辺も人気が全くなくて(というか、あたし一人だけですね)、あたしは静かで、ただただ波が押し寄せたり引いたりするその音を聞きながら、サンダルを両手に波打ち際を歩いています。裸足にあたる砂粒はさらさらしていて、痛みなんて全く感じません。

あたしは海が大好きです。アサギの海が一番好きですが、今はこの、ナギサの海も好きになりました。あたしは嬉しいことがあっても悲しいことがあっても海に足を運びます。それだけ海を愛しているのです。………残念ながら今は、後者の理由で海に来ていますが。



今日のお昼頃、ハヤトさんのピジョンが私にお手紙を一通届けて下さいました。お手紙の主はハヤトさんではなく、ヤナギさんでした。手紙の内容は、一週間以内にはジョウトに戻って来なさい―――、という、命令に近いような催促文でした。

いつかは、いつかは―――、戻らなくてはいけない、戻らなくちゃ、そう思ってはいました。でもあたしは、こんな手紙が来るまで、ジョウトの皆さんに甘えていました。何よりジョウトに帰る、という決断が出来なかったのは―――、このナギサで気になる人が出来てしまったから。



「………ここにいたのか」



あたしがサンダルをぶらぶらさせて海を眺めてると、デンジさんの声が後ろからしました。デンジさんは上着のポケットに手を突っ込んでいます。相変わらずの格好です。



「裸足とか寒くね?」

「寒くないです。砂って足にあたると気持ちいいんですよ」

「ふーん………」



俺にはよく分からない、とでも言い出しそうな顔をしてデンジさんは波打ち際にいるあたしの横に来ました。ポケットに手を突っ込んで寒そうにしてるのにも関わらず、こうやってあたしに近付いてきてくれるデンジさんは、口数は少ないけれど、とても優しい人。あたしはそれを知っています。

あたしは、ジャケットの下から覗いてるシャツの裾をキュッと掴んでみました。一週間以内にはジョウトに戻らなくてはならないというその寂しさが、あたしに少しでも彼に触れていたいと思わせたのでしょう。



「デンジさん、」

あたし、もうそろそろアサギに帰らないといけなくなりました。



ポツリ、といったはずのその言葉は、この海にいたのがあたしとデンジさんだけだからか、思ってたよりも大きく聞こえて。



「帰ってもお電話しますね」

「………」

「お手紙でも、いいんですよ?」

「!!おまっ、」



あたしが冗談交じりで言うと、デンジさんはちょっと顔を赤くして身をよじって。あたしはクスクス笑ってしまいました。



前に一度だけ、あたしはデンジさんと大喧嘩をしたことがあります。よく周りから言われるのですが、あたしはかなりの頑固者らしいです。とにかく、仲直りするまでの3日間はずっとデンジさんを避けていました。
でも、大喧嘩をした4日目に、あたしがナギサで滞在してる部屋のポストに、1通の置き手紙があって。中身を読んだ時、あたしは思わずびっくりしてしまいました。あの口下手なデンジさんが、まさかあんなストレートな文をあたしによこすなんて。………あ、どんな文だったかはあたしだけの秘密です。



一週間後、あたしはアサギの海にいることでしょう。

あたしがアサギにいて、あなたがナギサにいても、太陽は昇って、新しい1日が始まるのです。

あたしはまた、毎日、アサギシティジムリーダーとして働いているのでしょう。………いつか、またあなたと会える日を信じて。

そして、あなたがいつもジムのお仕事を終えた時間には、アサギの海に来て、“おかえり”とそっと海に向かって言っているのでしょう。



だから、一週間以内に訪れる別れの日には、お手紙を渡します。最後に“必ず、またナギサに行きます”という一行を添えて。





Letters





(アサギに戻っても、夢の中でもあなたに会いたいとあたしは願うのでしょう)




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『ファンタジア』の鈴蘭様より頂きました。
別れても繋がってるデンミカもへ…。

鈴蘭様ありがとうございました!

















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