時計の短い針は9を指している。ぽっかりと月だけが浮かぶ黒い空を見ながら私はソファーの上で暖かいココアを飲みながらトウガンさんの帰りを待った。だんだんと瞼が重くなりはじめた頃ミオの船着き場に船の到着を知らせる汽笛が響いた。


『帰って来た!』


飲みかけのココアをテーブルに置いて近くにあった上着を羽織ると家を飛び出して船着き場に向かった。


『トウガンさん!お帰りなさい!』

「おお、名字。わざわざ迎えに来てくれたのか?」


土や泥が付いて汚れている白いシャツにばふっと顔を埋めると汗の匂いが鼻をつついた。汗の匂いに交じったトウガンさんの匂いが酷く私の事を安心させた。


『一週間淋しかった。』

「悪かった。これからしばらくはずっと一緒だ。」


頭を撫でてくれる大きくてゴツゴツとした手は間違いなくトウガンさんのもので、暖かい手のひらの感覚にぽろりと涙が零れた。それに気付いたトウガンさんは少し困ったような顔をしながら強く抱き締めてくれた。冷たい風が吹き付ける船着き場を後にして私が飛び出してきた船着き場近くの家に入った。
家に入ってからは簡単だった。
2人でベッドに雪崩れ込んで息をするのも忘れるくらい激しい噛み付くような口付けを交わして全身がどろどろになるまで身体を重ねた。
まだ夜なのか、もう夜は明けたのか、身体にまとわりつく粘着質な液体はどちらのものなのか。何もかもわからなくなって気付けば部屋にはお互いの荒い吐息だけが響いていた。


『トウガン、さん』

「何だ、足りねぇのか。」

『ううん、違う・・・』

「じゃあ何だ。」

『うん、あのね、好き。』

「・・・・・・俺もだ。」


今の間の意味くらいちゃんと理解してる。トウガンさんは結婚しててヒョウタ君がいるし私にもちゃんと彼氏は居る。セックスを終えた後の虚無感が、嫌い。急に現実に戻された気がするから。でもセックスの後トウガンさんは必ず私を抱き締めてくれる。その時に鼻をくすぐる汗の匂いやトウガンさんの匂い、少し生臭い精液の匂いが大好き。だから事後の虚無感も少し、嫌いじゃない。

そして私は今日もトウガンさんの匂いに包まれて重い瞼をそっと閉じる。
目が覚めても隣にトウガンさんが居ますように。



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甘いのか切ないのか不明。


10.03.28








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