年上主人公



「京介君」


片手に淡い色の大きな花束を抱えて、兄さんの見舞いに来ていた俺を呼ぶその人の名前は名前さん。知人がこの病院に入院しているらしく待合室でたまたま隣の席に座ったのが始まりだった。
「君、中学生?お見舞い?偉いね。」そんな台詞が子ども扱いされてるようで苛立った覚えがある。病院でたまたま隣に座った奴、俺はそれだけの認識だった。けど名前さんは違った。院内ですれ違うと声をかけてくる。何かをくれる、食事に誘ってくる。はじめは煩わしく思ってた俺も途中から心を開き始めた。雷門中に転校した事、サッカー部に所属していること、病院には兄さんの見舞いに来ている事。


「京介君」

「名前さん」

「今日もお兄さんのお見舞い?」

「はい。そういう名前さんも?」

「うん。京介君、この後暇?」

「………特に用事があるわけじゃありませんけど」

「ホントに?この間見つけたお洒落なカフェがあるんだけどよかったら一緒に行かない?』」
「俺でよければ付き合います」


連れて行かれたそこは小さなカフェ。名前さんの言った通りお洒落な所だった。奥の席に腰を下ろす。茶色いメニューブックを開きながらおすすめとやらのパフェを指差す名前さんの顔はとても楽しそうだ。


「京介君、どれにする?」

「俺はコーヒ…」

「ここのお店ね!ミルクティーがすっごくおいしいの!」

「…………ミルクティーで」

「じゃあ私はミルクティーとキャラメルパフェにしよっと!」


暫くしてテーブルに運ばれてきたそれは、普段の俺の生活からは程遠いような甘ったるい匂いで俺の鼻を擽る。洒落たカップに口を付ける前に目の前に差し出されたスプーンには、キャラメルがかかった生クリームが鎮座したいた。


「はい、あーん!」

「いや、あの、」

「大丈夫!私まだ口付けてないから」

「そうじゃな、んぐ(おええええええ甘ッ)」


口内に蔓延る生クリームの甘さを流そうと飲んだミルクティーもまた甘い。俺の口内は甘さで荒らされながらも平然を装い、さっき差し出された何倍もの生クリームが乗ったパフェを頬張る名前さんを眺めていた。


「京介君、サッカー楽しい?」

「……」

「サッカー、好き?」

「……ああ」

「そっか!えーっと、なんだっけ、ホーリー…?」

「ホーリーロード」

「そうそれ!全国大会なんでしょ?私が今お見舞いに行ってる友達もね、昔サッカーやってたんだ。交通事故で足に怪我しちゃって今はもうサッカー出来ない体になっちゃったんだけどね…だからさ、サッカーが出来ない私の友達の分まで頑張って、全国の頂点に立ってほしいなぁ…」



名前さんが両手で持つティーカップの中身がゆらりと揺れる。


「なーんて!えへへ、京介君も困るよね!急に意味不明な事言われても…」


顔も何も知らない。 それなのに、なぜか。名前さんの言った"その人"に兄さんを重ねてた。俺らしくもない。それなのに、少し悲しそうに目を伏せた 名前さんの顔が妙に印象強い。


「俺が」

「京介君?」

「俺が雷門をてっぺんまで連れてってみせる。アンタと一緒にな」


名前さんは音も無く笑った。俺がフィフスセクターに逆らうと決めたのは、この時だったのかもしれない。いつの間にか空になったパフェグラスの中でカランと転がったスプーンの音だけが妙に大きく、響いて聞こえた。






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口調、キャラ迷子とはこの事か…
京介は年上主人公ちゃんが似合う気がした


11.08.26








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