※携帯擬人化
カチカチ、カチ、カチカチカチ、カチカチ、俺一人だけが居る空間に響くのは携帯のボタンを押すカチカチという無機質な音だけ。窓を開ければ車の走る音だとか、踏み切りの信号だとか、近所の子供たちのはしゃぎ声だとか、色々な音が聞こえてくるのになんだか不思議な気分になる。おっと、俺一人じゃなかったね。普通ではありえない事だけど俺の手の中にある携帯がカタカタと震え始めた。
「マス、ター!!」
怒号と共にぼふん、と漫画でよく見かけるような効果音がして手の中の携帯の感触が消えたと思えば視界いっぱいに白煙が広がった。もうもうと立ち込めるその中から顔を出してずいっと俺の方に身を乗り出してきた女の子は俺と同じ赤い髪。女の子、っていうか俺の携帯なんだけどね。
「やあ名前。」
「やあ名前(声真似)じゃないですよ!何回言ったらわかるんですか!」
「何の事?」
「とぼけないで下さい!コレですよ、コレ!!」
ぐいーっと乱暴に黒いコードを手繰り寄せて俺の前にびしっと突き出す。名前が怒ってる理由は十分にわかってるけどね。
「充電しながら使わないで下さいって何度言ったらわかるんですか!」
「ごめん。つい、ね?」
「ついじゃないですよ!充電されながら使われるとすっごく体が熱くなっちゃうんですから!」
その言葉の通り、名前の頬や体はほんのりと赤く色付いて、首元や額にはうっすらと汗の膜が張っている。お風呂でのぼせた時みたいに目も潤んでる。ふふ、かわいいなぁ。
「充電、されながら使われる、負担は…はぁっ…」
「だ、大丈夫?名前?」
赤い顔で眉間に皺を寄せて俺の胸にふにゃりと倒れてきた名前の肩を抱くと、確かに人肌(人じゃないけど)にしては熱く、熱をもっていた。さすがにやりすぎちゃったかもしれない。冷たい水で絞ったタオルでも持ってきて体を拭いてあげよう。あっ、俺の携帯は防水だから大丈夫だよ。お風呂だって一緒に入っちゃうよ。タオルを取りに行こうと名前をベッドに寝かせて傍を離れようとすれば熱い手で上着の裾をぎゅっと掴まれてオレンジ色に皺が寄る。
「今冷たいタオルを持ってきてあげるから」
「ううっ…」
「何?どうしたの?」
「充電器…」
「うん?」
「抜いてって、下さいぃ…」
はっは、と浅い呼吸を繰り返しながら迫力の無い目でキッと睨まれた。充電完了の割合はまだ60パーセント。
「まだ充電終わらないよ?」
「いい、から!」
「寿命縮んじゃうよ?」
「体が熱いのが収まらないならその方がマシ、で、す」
「うーん、それじゃ抜くよ?」
「はい…っ」
充電中にずっと弄ってた俺が言える台詞じゃないけど途中で充電器を抜くのはなんだか気が引ける。名前の寿命が短くなっちゃうの、嫌だし。頭の中でそんな葛藤を繰り広げて渋っていると痺れを切らした名前から再び怒号が飛んでくる。電池パックなんてまた買い換えればいいじゃないですか、と。それもそうか。
「でもこれさ…」
「ひい!」
「こんなに深く銜え込んじゃってなかなか抜けないよ?」
「そ、んな…つよ、くぅ…!」
「名前、力抜いて」
「無理で、す、う!」
「うーん、どうしようか…」
充電器をずっぽりと銜え込んだ名前のソコは頑なにきゅうっと締まっていて充電器を放す様子が無い。抜いて欲しいって懇願してる本人の体がこの様子じゃどうにもならない。
「名前、ちょっと我慢しててね」
「え、何を…ふぁあ!」
指を二本捻じ込んで入り口をこじ開けると甘い匂いのする透明な液体を溢れさせながらくぱっと口を開いた。ひくひく痙攣してる内壁のの奥の方に充電器の黒いコードが見える。気が紛れるように名前の背中をそっと撫でたらそれが逆効果だったみたいでびくんと大きく体を揺らして広げていた入り口がきゅうっと狭くなった。声が漏れないようにと必死に顔で宛がう枕にはテグスのように光沢のある髪が散らばっていてとても綺麗だ。もう少し見ていたいけどさすがに名前がかわいそうだ。早いうちに抜いてあげよう。
「も、やだっ…マスターの、えっちぃ…」
「俺は充電器を抜こうとしてるだけなんだけどなぁ」
「だったら、早く、抜いて下さいってばぁ!」
「名前がきゅうきゅう締め付けてくるから抜けないんだよ?」
「そんな事言ったってぇ…」
「ちょっと乱暴になっちゃうけど我慢してね?」
「んぅ…あ、ひゃ…ん、あああっ!」
「はい、抜けた。」
充電器の先にはべっとりと粘着質な液体が付いていて、ベッドに横たわる名前は先ほどよりも赤く汗ばんだ体でぐったりと脱力しきっていた、っていうか充電器を思いっきり引き抜いた衝撃で電源が落ちちゃったみたいで、長い睫に縁取られた瞼はしっかりと閉じられている。携帯なのにこんなに色っぽいだなんて、困っちゃうよね。
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擬人化派シリーズ「携帯」
スターライン聞きながら書きました。
充電器の差込口がどこかはご想像におまかせします。
11.04.06
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