ひょろひょろと細長くて、とても目が大きくて不気味に笑う男の人に拾われて1ヶ月が経った。名前は御堂筋翔くん。わたしは御堂筋くんと呼んでいる。
御堂筋くんはわたしを家に連れてきてお風呂に押し込まれてご飯も無理やり押し込まれた。その日の夜、御堂筋くんが寝たのを見計らってわたしはお腹に溜まっていたオムライスを吐き出した。わたしはごはんなんて食べたくない。御堂筋くんはどうしてわたしを連れてきたのだろう。御堂筋くんはわたしに何もしない。怖いこともしなければ痛いこともしない。お風呂にも入れてくれるしわたしがプリンを食べたいといえばコンビニでプリンを買ってきてくれる。ただひとつ、わたしはこの部屋の外にでることが出来ない。窓にはガムテープでがちがちに何重にも目張りがしてあるし、御堂筋くんの家の窓はワイヤー入りだから叩き割って出ることも出来ない。玄関はなぜか開かない。鍵は一つだけで、内側からガチャリと解錠する音は聞こえるのにドアがうんともすんとも動かない。でもわたしは今の生活に特に不満はない。スカートのポケットに中にあるスマートフォンはとっくの昔に充電が切れていて動かない。
御堂筋くんは今日も朝早くから学校に行っていない。わたしはただ開けることの出来ない窓ガラスの外で鳥が気持ちよさそうに飛んでいる姿を眺めた。

夕方、日が落ちてしばらくすると御堂筋くんは帰ってくる。おかえりなさい、と言うと大きな口をにニヤりと釣り上げてエエ子にしとった?とわたしの頭を撫でてくれる。わたしはこれが嫌いではない。今日も御堂筋くんの手にはコンビニの袋が握られている。

御堂筋くんはわたしに何もしない。怖いこともしなければ痛いこともしない。でもわたしが外に出たいと言うと御堂筋くんは豹変する。大きな目を血走らせてそのその細い体で私に跨って細い手首に生えた細い指で私の首を絞め上げる。苦しいというわたしの声は御堂筋くんの耳には届かない。なんで、なんでやの、なんでそない事いうの。そう呟きながら御堂筋くんは手に力を込めるのだ。
わたしの首を絞めたあと、御堂筋くんはいつも悲しそうに顔を歪めてわたしの事を抱きしめる。わたしは御堂筋くんの匂いと、御堂筋くんの細長い身体と、御堂筋くんの事が嫌いではないので、御堂筋くんに抱きしめられるのも嫌いではない。喉の奥はいがいがとして息を吸うのが気持ち悪いけど、御堂筋くんに抱きしめられるとどうでもよくなる。わたしを抱きしめている時の御堂筋くんがあまりにも幸せそうな顔をするから。
今日も一緒にお風呂に入って御堂筋くんに身体を洗ってもらった。わたしの身体を洗う手つきは壊れ物を扱うかのように優しい。御堂筋くんはわたしにいやらしい事もしようとしない。ぬるぬると身体を這う細長い指は泡を纏いながら私の身体を泡だらけにしていく。泡でいっぱいになった自分の身体で一緒に御堂筋くんの身体を洗うようにこすり付けると優しい顔でありがとうと言う。

「御堂筋くん」
「ンン、なに?」
「アイスが食べたい。」
「ええで。ほな一緒にコンビニいこか?」

わたしは驚いた。わたしが外に行きたいといえばいつもこれでもかというほどに怒る御堂筋くんはわたしに一緒にコンビニに行こうと言った。

「わたしが一緒に行っても怒らないの?」
「怒らへんよ」
「外に出てもいいの?」
「ええよ。ボクが一緒におったるから」

何を考えているのかわからない御堂筋くんの顔だけど、その顔に怒りは見えなかった。わたしは御堂筋くんが貸してくれた真っ黒なTシャツとホットパンツを履いて御堂筋くんと一緒にコンビニへ向かった。
0時を過ぎた道にはちかちかと光る蛍光灯に群がる虫以外に誰もいない。御堂筋くんの左腕とつながった自分の右手をぼんやりと眺めながらクロックスを引きずった。やる気のないコンビニ店員に出迎えられて店内に足を踏み込むと明るすぎる証明に目がくらんだ。2人でアイスを選んで、考えなしにカゴにごろごろと放り込む。御堂筋くんがブラックコーヒーを買っていたのでわたしもいちごミルクを買った。御堂筋くんは優しい。
ぎゅうっと握った手をぷらぷらと揺らしながら家に帰る中、わたしはスカートのポケットに入っている精神安定剤の残りの数をぼんやりと思い出していた。
わたしは一生御堂筋くんに囚われたままでもいいかもしれないなあ。

「御堂筋くん」
「なんや」
「御堂筋くんはずっとわたしと居てくれるの?」
「おるよ。」
「ずっと?」
「ずっとや」
「そっか。」
「そうや」

淡々と答える御堂筋くんの手に離さないとでもいうかのようにぎゅっと力が入った。こんばんは冷えるから御堂筋くんと同じ布団で寝かせてもらおう。精神安定剤は必要なさそうだ。

14.7.13



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