いつもそうだ。

「巻島先輩」

お前は俺より頭何個分も低い身長で俺を見上げて

「巻島先輩」

俺より何オクターブも高い声で楽しそうに喋る。

「巻島先輩」

俺より何倍も大きな瞳できらきらと笑う。

「巻島先輩」

俺よりも、厚く、ふっくらとした、熟れた果実のような唇で俺の名前を呼ぶ。




「ーーーき、…ま 巻島先輩ッ!」
「ッショォ!?いきなりビビるッショ…」
「さっきから何回も呼んでるじゃないですかー、もうっ」

ぷりぷりと怒りながら頬を桃色に染める名前は最高にかわいい。書いてください、と小さな手から渡されたそれは薄緑色の短冊。今日は七夕ですから。と嬉しそうな顔をする名前の手には水色の短冊が握られていた。

「金城さんや田所さん、1年のみんなにも渡したんです。せっかくだからみんなで短冊書こうって。鳴子くんの提案なんですよ。」
「クハッ、ほんとに祭り事や好きな奴ッショ、あいつ。」
「でも、こういうのもたまにはいいと思います。部全体がひとつになってるって感じじゃないですか?」
「そーかねぇ…」
「なぁんだ、巻島先輩意外と冷めてますね。」
「冷めてる。ねぇ…ところで短冊、お前はなんて書くんショ?」
「そうですねー…IH優勝!ですかね?」
「いいじゃねぇの。でっけぇ願い事ッショ」
「あ、でも、わたし願い事なんてしなくても巻島先輩たちなら優勝取れるって信じてますから」
「かーわいいこと言ってくれるねぇ」

俺の頭よりも一回りも二回りも小さな頭をぐりぐりと撫で回せばきゃあ、なんて小さな声と一緒に頬を桃色に染めて笑う。”巻島先輩がケガなくIHを終えられますように”ピンク色の短冊には整った女らしい文字でそう綴られていた。自惚れそうになるッショォ… 俺と目があった名前は照れたようにえへ、と笑う。

「皆さんにケガをしずにIHを終えていただきたいのはもちろんですけど、巻島先輩のダンシングはカッコよくて、ちょっぴり心配になりますから。だから、短冊には巻島先輩がケガしませんように、なんです!」

一番目立つ所に飾ろう、なんて言う名前は鳴子がどこからか調達してきた笹の枝に短冊をくくりつけて満足そうに笑った。”山頂取る”そう書いた短冊を名前の短冊の隣にくくりつけた。

「短冊余っちゃいましたねぇ…せっかくですし何か書きましょうか。巻島先輩も一枚どうぞ。」
「あァ!?もう書く事なんて無いッショ!」
「え〜夢が少ない人ですねぇ…。私は書きますよ!あと2枚!」
「へいへい、夢が多くていいこってぇ」
「何ですかその言い方ー!書いた短冊巻島先輩には見せてあげないですからー!」

ぷい、と俺に背を向けて腕でガードするように屈みながらせっせと短冊を書き始める名前。残念ッショ。俺は立ち上がれば上からどれだけでも見ることが出来るッショ。どれどれ…と名前の腕の中を覗きこむと薄緑色の短冊に”巻島先輩お誕生日おめでとうございます”と書かれていた。それ…願い事でもなんでも無いッショ…もう一つのオレンジ色の短冊ーーーー”巻島先輩と付き合えますように!”

「バァカ…」
「んっ……ハッ!もしかして短冊見ましたか!?見ましたか!?」
「アァ…見た。この目でしっかりとなァ」

みるみるうちに名前の顔はりんご色に染まり、目尻にはじわっと涙が溜まり始める。

「なァに泣いてんショ?願い事だろ?ま、一つは願い事でもなんでも無いけどな。お前の夢、叶えてやるッショ。俺ァ…七夕の男だからなぁ」

ぽろり、名前の目から涙がこぼれ落ちるのと、俺が名前の唇に自分の唇を重ねるのはほぼ同時だった。名前は一瞬大きく目を見開き、次の瞬間にはオレンジ色の短冊をぐしゃぐしゃに握りしめていた。

「まっ、まき…し、ま、しぇんぱいっしゅきれひゅぅう」
「クハッ、何言ってっかわかんねーッショ」
「せんぱいっ、せんぱいぃい…」
「わーったから、泣くなっての…俺も好きッショ、名前。」

涙でぐしゃぐしゃになった名前の顔。2回めのキスはとびっきりしょっぱかった。




7,7 Happy Birthday!
2014.7.7



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