インターハイが終わった。練習に力を入れていた俺たちにとってそこから先はあっという間で気付いたら2度目の春になっていた。
王者箱根学園。その名の通りレースは圧巻だった。そんな先輩たちがいなくなった部室には寂しさを感じるが1年後には俺達も先輩のようになってなければいけないと一心不乱にペダルを回すことに集中した。






「やっちゃった…」
「名前チャンどうしたのォ?」
「次体育なのにジャージ忘れちゃった。荒北くん余分に持ってない?」
「持ってねぇヨ。荷物増えンのやだし。」
「持ってないかぁ…どうしよう…」
「新開なら持ってンじゃなァい?あいつロッカーに予備とか入れてた気ィすっけど。」
「新開くんの所行ってくる…!」


俺がジャージに着替え終わってトイレから戻ってきた時、教室の中を見渡してきょろきょろとしている名前ちゃんを見つけた。俺と名前ちゃんは隣のクラスだから次は合同体育なのにまだ制服を着てる。ひょっとしてジャージを忘れたのだろうか。

「名前ちゃんどうかした?」
「あっ新開くん!予備のジャージって持ってないかな!?」
「ロッカーにあるけど…もしかして忘れたのか?」
「そうなの!荒北くんが新開くんなら持ってるって…」

ヒュウ!靖友の奴たまにはいい事言ってくれるじゃねぇか。俺の予想は大正解。名前ちゃんにちょっと待っててくれと声をかけるとニヤつく口元を隠しながらロッカーの中からジャージを引っ張りだした。変な匂いしないかとか、埃っぽくないかとか、いろんな事が一気にぐるぐると頭の中を駆け巡ったが、特に大丈夫そうだったのでジャージを簡単にたたんで名前ちゃんの元へ急いだ。

「体育が終わったらそのまま返してくれればいいからな。」
「ええ!そんな申し訳ないよ!ちゃんとお洗濯して返すから!」
「気にしなくていいんだけどな…それより早く着替えないと間に合わないぜ?」
「あっ、ホントだ…!ジャージお借りします!じゃあ新開くんまたあとでね!」

俺に背を向け、両手でジャージを大切そうに抱えてぱたぱたと走って行く姿はそれはもうかわいかった。

「新開顔キッメ…」
「靖友!名前ちゃんに俺の事言ってくれたみたいでサンキューな!」
「別にィ。なんとなァくお前が浮かんだだけだし。でもまぁ結果協力してやったんだから学食奢れよな。」
「ああ、お安いご用だ。」

体育の授業中、背丈に吊り合わないぶかぶかのジャージを着て走り回る名前ちゃんはとてもかわいくて、それが俺のジャージだという事を考えると胸の辺りがむずむずした。
体育の後の昼休み、ジャージを借りたお礼だと言って名前ちゃんはアクエリアスとメロンパンとポッキーを購買で買ってきてくれた。せっかくだから一緒に食べようと声をかけるとお礼に買ってきたのに自分が食べるわけにはいかないと言った。本当にしっかりした子だと思う。ダメ押しに一言、俺が一緒に名前ちゃんと食べたいんだと言えば新開くんには敵わないや、と困った笑顔を浮かべながら前の席の椅子を引いて俺の机の前に向かい合って座った。
しばらくすると何枚かのプリントを持った寿一が来て部活の話がしたいと申し出た。

「苗字もいるのか。ならば丁度いい。」
「福富くんも座ろうよ。ポッキーもあるよ。」
「む、ならば失礼しよう。苗字、隣りに座ってもいいだろうか。」
「うん、いいよ」
「すまない。」

俺の思い込みかもしれないが、寿一が教室に来た時から名前ちゃんはとても楽しそうに見えた。なにより、寿一と話している時の名前ちゃんは良く笑う。急に寿一が話してることがどうでもよく思えてきて俺は頬杖をつきながらぼんやりと外を眺めて、そこから名前ちゃんの顔を見ることができなくなった。

「新開、聞いているのか?」
「ああ、聞いてるさ寿一。」

今日はムカつくくらいに晴れてるな。


2014.9.8



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