動機は不純ですが*翔

私は我侭らしい。今まで散々父に言われた、お前は我侭だと。
お父さんは弁護士だ。当然頭もいいし正義感も強く、ついでにいえばお金もある。友達はみんな羨むけれど、私はあまり好きじゃない。お父さんは私にも同じだけの結果を強要する。
小さい頃は意味もなくお父さんに憧れて弁護士になりたいなんて言っていたけれど、今は違う。あいにく私はお父さんほど賢くないし、弁護士は立派だと思うがなりたいとは思わない。だからといってなりたい職業があるのかと言われれば違うのだけど、とにかく父親の言いなりになるのが嫌なのだ。
それでも進路を自分で決められない私は父の言った大学に進み、法律を学んでいる。浪人だけは勘弁してほしくて一応は勉強したけれど、まさか受かるなんて思ってもみなくて、第一志望が受かったからには通わなくてはならなくなり、ますますお父さんの思う壺だった。
弁護士にも検事にも裁判官にも興味はないのに、講義を受けるだけで頭痛がする。


「……すいません、隣いいですか?」


適当な大学に入ってキャンパスライフを満喫している友人たちの憎らしい頑張れメールを見て溜息を吐くと、不意に声が降ってきた。お昼時で混み合った学食でその声が自分に向けられたものかはわからなかったけれど、とりあえず声の主を探してみる。顔をあげた私を見下ろす若草色の瞳を見つけて、思わず息を飲んだ。
目が覚めるほどイケメンだ。こんな人うちにいたっけ、と一瞬考えるが、そもそも講義が憂鬱すぎて友人など一切作っていない私が他人の顔など覚えている筈がない。
ぱちぱちと目を瞬くしかない私を見て、彼は苦笑する。それにようやくハッとして、どうぞどうぞと隣の椅子を引いた。彼は律儀にお礼を述べて、私の隣に腰かける。


「俺、今年入ったばっかりで。聞くには聞いてたんですけど、予想以上に混むんですね」

「わ、私も今年入ったの。だから、同い年?」

「へえ、一年生か。じゃあ敬語じゃなくてもいいよな」


にっと笑った彼にどきりと心臓が跳ねた。やばい、超カッコいい。こないだリア充の友達に送られてきたキスプリの彼氏なんか、彼と比べればジャガイモだ。
不知火一樹、と名乗った彼はなんと同じ学部だと言う。本当になんでこんなイケメン知らなかったんだ私。
自分の馬鹿さ加減にほとほと嫌気が差しながらも彼の名前を必死に刻み付けていると、すっと不知火くんが手を差し出してきた。


「法律を学ぶ者同士、仲良くしようぜ」

「う、うん」

「はは、よろしくな」


ぎゅっと私の掌を握った大きな手から伝わってくる体温に、鼓動が速まる。
お父さん、私は我侭ではなく現金な娘です。それでも、絶対弁護士になってやろうと決めた。




動機は不純ですが、
(その分本気ってことで)



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