プレゼントは些細なモノ*流星

この3年間、本当にあっという間だった。

高校受験はなんとか終わって、高校生になったと思ったらそこから3年間は一瞬で終わってしまったように今では思う。


「それでも無事に受験終わったんだ・・・」


大学受験は私立志望であるのにも関わらず、3月までかかってしまった。
というのも高校3年になっても「受験生」である実感が湧かなかったからだ。

受験生なのか・・としみじみ思い始めたのはセンター試験前の12月だった。
そんな私を見て、友人達は「やっとか。」なんてホッとしていた。


「おーい、生きてるー?」


私の目の前に立つ一人の友人は、私の目先でピースサインをした。


「生きてる生きてる。そのピースなに?」

「え?これ何本に見えるって聞こうと思って。」


馬鹿にしてんのか、あんたは。


「しっかし本当に大学生になったんだねー。実感湧かないや。」

「私も。」

「いやいや一緒にしないでよ。あんたはいっつも実感湧くの遅いじゃん。」

「あっそ。」


友人が急に立ち止まった。


「どうしたの?」

「うーん・・あれって会長くんかなぁ?」

「え?あの、うるさい人?」

「ほら、あれ。今桜の木の近くにいる。」


友人が指差す先には桜の木。その近くを歩く多くのスーツ姿の学生。
その中でも「彼」は目立っていた。髪色が変わっているのもあるかもしれない。けれども、それよりも「彼」の存在感がもっと強いのだ。


「名前なんだっけ?」

「あんたほんと興味ないものには興味ないよね。」

「別にいいでしょ。」

「サバサバしててね。いいと思うけどね、私は。
”不知火くん”だよ、”不知火”!」

「しらぬい、ね。」


記憶するために口にした。


「でも不思議だね。」

「なにが?」

「会長くんもスーツ姿・・・ってことは同じ大学でしょ。うちらの大学の近くに大学一つもないし。」

「あーなるほど。」

「よし、行くか!」


・・・え?
ポカンとする私の手を友人は強く掴んだ。言っちゃ悪いけど私は体育の成績は3だったけど、走る競技はからっきしダメだった。
突然走るだなんて以ての外。いきなり走る友人のスピードに私がすぐ適応できるわけがない。

私は今にも転びそうな姿勢のまま、友人に引っ張られながら走った。


「不知火くん、久しぶり!」

「・・あ?」


にこにこと笑いながら話し掛けた友人とは対照的に、不知火くんは不機嫌な声色で答えた。


「あれ・・覚えてない?放送委員の部長ですよー。」

「ああ、山田か。」

「あっれー。なにその迷惑そうな顔!ひっどいなぁ。」


いやいやあなたのテンションが高すぎるんだよ。ついていけないし。
不知火くんに同情するよ、私。


「あ、お前は保健委員の。」

「え、」


ちょ・・待て。
私、初対面なんですけど。なんで知ってるんだ?
問題とか起こしていないし、行動的な奴じゃないからあんま目立つことなかったから、覚える機会とかなかったでしょうよ。


「なんだ・・・同じ大学か。」

「ねー。これで同じ学部だったら楽しそうだよね!」

「そうかね。」


はぁっと深い溜め息をついていると不知火くんが不思議そうな顔をして私を見ていた。


「え、なに?」

「いや・・別に。」

―――

大学の入学式が終わってオリエンテーションが始まった。
オリエンテーション中は授業がなく、お昼頃には大学を出ることができるので時間に余裕がある。

そうそう。私と友人と不知火くん、全員同じ学部な上に同じクラスであった。


「不知火くん、明日から履修願い期間になるけどもう授業決めた?」

「そりゃ決めたよ。だって明日だぞ?」

「ほーら。ちょっと・・聞いてた?不知火くんだってもう授業決めたんだよ?ていうかあんた以外みんな決めてるからね。
なんで慌てないかなぁ。不知火くんからも言ってくれない?」


オリエンテーション期間が終わると一般系の科目の履修願い期間に入る。
それが明日である。
私は相変わらず「大学生」の実感がまだ湧いてなくてのんびりとしていた。


「一応取りたい授業はあるけどね。」

「あーびっくりした。一応、取りたい授業あるんだね。」

「でもそこから絞るのがね。すごく悩んでる。」

「何と迷ってんだ?」


ふと、不知火くんが口を開いてそんなことを言った。


「天文学と心の文学。」


星が好きだから天文学。
人の心を知りたいから心の文学。

どちらも興味がある授業。


「え?その2つだけ?他はもう決まってるの?昨日は全然決まってないって言ってたじゃん。」

「昨日の夜じっくり考えてほとんどは決まったんだよ。あとは天文学か心の文学にするか、だけ。そこまでのんびりしてないよ。」


全く・・と溜め息をついていると不知火くんがすごい(怖い)顔で私に迫ってきた。


「え、」
「あのさ、もし悩んでいてどっちでもいいなって思ってるなら天文学にしないか?」


びっくりしている私をよそに、友人は「へぇ。」なんて感心している。
不知火くんはというと私の目の前にいて、真剣な眼差しを投げかけてくる。どうやら私の返答待ちのようだ。


「別に天文学でもいいけど。」

「ほんとか?っ、よっしゃー!!」


異常なまでに喜ぶ不知火くんを一瞥して友人に目線を向ける。


(不知火くん、一体どうしたの?)

(さぁ、ね)


「最高のプレゼントだな!」

「「”プレゼント”?」」

「ああ。今日は俺の誕生日なんだ。」

「へぇ。」
「なるほどねぇ。」


プレゼントは些細なモノ


「今日の帰りどうする?」

「普通に帰る。時間割決まったけど計画表として出したいから。」


「ちょ、俺の話聞けよ!!」



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