別世界への扉
次に目覚めた時、まだこの病室に居たならば、私はこの夢を夢ではなく、現実としようと決めて、昨晩眠りについた。
そして、目覚めてみれば、やはりと言うのか、寝る前と変わらぬ病室に私は居た。
ここまでくれば、仕方ない。
足掻くことなどせずに、この状況を受け止める他ない。
「さて、どうしようか」
自分がどういう者なのかはある程度知っている。
とりあえずは、楽天的に攻めてみるべきか。
慎重に事を起こさず、息を潜めるべきか。
「外の空気が吸いたいな」
もうお昼前だが、勝手に病室から出ても大丈夫だろうか。
目を覚ましたことで、点滴は昨晩が一応最後と聞いている。
その証拠に朝ご飯がきちんと運ばれてきていた。
目覚めてから時間が経ってないからか、お粥だったが。
お粥だからといっても、味がしないというわけではなく、適度な塩加減が美味しかった。
そんな話はどうだっていい。
朝ご飯があったなら、昼ご飯が運ばれてくるのが当たり前であろう。
運ばれてきた時に私が病室に居ないことは問題だろうか。
「少しならいいか」
勝手に結論付けて、履き心地の良いスリッパを履いて、病室の扉を開けた。
開けたら別世界でした…なんてことがあるわけでもなく、普通に病院の廊下が広がっていた。
そのまま、気の向くままに進んでいく。
別世界だなんて、そんなファンタジーな事態には陥りたくはない。
今の状況も十分ファンタジーではあるが。
これ以上のファンタジー要素など、御免被る。
「綺麗な病院…」
騒がしいわけではない。
病院なのだから、当たり前なのかもしれないけれど、こういう総合病院は小児科を入れているところが多いから、少しは子供が居て賑やかなものだ。
確かに子供の声はするけれども、煩いわけじゃない。
こういうのを心地良い喧騒というのかもしれない。
騒がしいのは好きではなかったけれど、静か過ぎるのが一番嫌いな私には良い環境だった。
「屋上…?」
歩き回ること数分。
屋上に向かう階段を見つけた。
立ち入り禁止などの札や貼り紙はない。
ということは、行っても構わないということだろう。
外の空気が吸いたくて、病室を出てきたのだ。
屋上に出れるなら願ったり叶ったりである。
「よし」
気合いを入れて、上にある扉を見ながら、階段を昇る。
昇りきって、扉を開ければ、青空の広がる屋上。
開けた扉が自分が冗談で言ったよりもファンタジーな出来事への扉だっただなんて、私はこの時まだ気付いてはいなかった。