それは甘くも苦しい約束



看護士さんに連れられて病室に戻ると、泣きそうになっている神が待っていた。

私を見るやいなや、私に抱きつき泣き始める。

心配をさせてしまった。

彼女はどうやら私を思いのほか、慕っているようだ。



「兄さんのバカーッ」

「ごめんね、神」



謝って、抱きついたまま泣いている神をやんわりと抱き締める。

きっと私は大変な果報者なのだ。

心配してこんなにも泣いてくれる妹がいる“ボク”は。



「どこに行ってたの?」

「屋上に少しね」

「屋上…?」

「外の空気を吸いたかったんだ。心配をかけるつもりはなかったんだけど、本当にごめんね」



余程心配したのだろう。

再度謝れば、彼女はボクの背に回した腕に少しだけ力を込めた。



「ねぇ……兄さん」



幾分かの間泣いていた神が呟くようにボクを呼んだ。

その声音はどこか不穏にも聞こえたけれど、そんなことは気のせいにして、神の声を聞き漏らさないよう、集中する。



「お願いよ。居なくなったりしないで」

「居なくなる?」

「いつか兄さんが私を置いて居なくなってしまうような、そんな気がするの。だから、お願い、兄さん。約束して?私を置いて居なくなってしまったりしないって」



喉が異様に渇く。

カラカラと何かが崩壊していくような、足元が崩れ落ちていくような、そんな不安定さ。

神は神なのだ。

どこかで感じているのかもしれない。

“ボク”が、“私”が、比内煉という存在が死んだことを。



「約束よ?兄さん」



まるで、何かの甘い蜜のような響きを持って、神の言葉は耳に入って、脳に溶けた。







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