絵画のような君
とても綺麗な人だと思った。
まるで絵画から飛び出てきたんじゃないかと思うくらい、人間離れした美しさ。
俺自身、よく綺麗だとか美人だとか言われるけれど、そんなのが全部吹っ飛んでいくくらいに、その人は綺麗だった。
頭に巻かれた包帯が痛々しく、それだけが人間らしく思える物だったとも思う。
知り合いというカテゴリーでは満足出来ない。
とにかく、幸村精市という俺自身を認識させたかった。
声をかければ、穏やかに微笑みを返され、その表情に見惚れた。
俺の周りに柳をはじめ、仁王や柳生などタイプの違う美人と言われるだろう奴らがいるけれど、その人ははじめてのタイプだった。
声を聞いても、男女の区別が付きにくい。
男にしては若干高いように聞こえるし、女にしては低いようにも思う。
年上だろうかと、漠然と思っていた。
話す内に分かった名前は中性的で、ただ“ボク”という一人称で、男だろうと認識するに至った。
彼はどこまでも澄んでいるように思えた。
まさか同じ年だなんて思いもしなくて、嬉しくて仕方がなかった。
比内は落ち着いていて、とても同じ年には見えなかった。
確かに、真田や柳がいるからある意味では落ち着いている同級生に慣れていたのに、比内は全く別ものだった。
他愛もない会話をして分かったのは、比内の名前と学年、それから少し前までは九州にいたということだけだった。
事故のショックからか、あまり九州にいた時のことを思い出せないんだと苦く笑った比内に、俺の方が苦しくなった。
「ねぇ比内はどこの中学校?」
「中学…あぁ転校先か」
「うん」
「それがボクにもよくわからなくて。妹なら知っていると思うから、訊いてみるよ」
「同じ学校ならいいのに」
俺がそう言えば、比内は「そうだね」と笑う。
きっと、どれだけ話しても、比内を年上に感じてしまうだと、直感的に感じていた。
比内の仕草や物腰は洗練されていて、綺麗過ぎる比内によく似合っていた。
生気が感じない程に綺麗な比内を、物腰の柔らかさがカバーして、人間らしくしているようにも思う。
ガチャリと音を立てて、屋上の扉が開いた。
隙間から見えた看護士さんは、比内を視界に入れて安堵した表情になる。
「見つかっちゃったな」
冗談めかしてそう言うと、比内が可笑しそうに笑った。
「比内君、病室を出る時はナースコールしてからにしてね」
「はい、すみませんでした」
そこまで怒ってないだろう看護士さんは呆れたようにそう言う。
苦笑を携えて謝る比内にきっとまた繰り返すだろうと俺は予測を立てた。
「見つかっちゃったから、病室に戻るよ。またね、幸村」
「あぁまたね、比内」
比内の言った“またね”の言葉が嬉しくて、俺は暫く口角が下がらなかった。