私と友人のこと
唐突ではあるが、私が現実としている女であった比内煉には友人と自信を持って言える人が3人いた。
いつだって、4人一緒に行動をしていた。
多少、浮いた存在であったのは否めないが、結論的に言って、私が彼らと居ることに後悔したことは一度たりともなかったと言える。
何かしら我慢を強いられていたところが共通点立ったと言えるが、私を含め4人ともが問題を抱えていた。
言わば、類は友を呼ぶのだ。
とにかく、私の友人を紹介しよう。
聖夜と椿に悠生。
聖夜は名前の通り、12月25日生まれだ。
見た目で言うなら一番の問題児だったであろう。
彼は私達のフォロー役だった。
銀に近いくらいに色素を抜いた髪に紅のメッシュを入れて、ブレザーの下にはいつもフード付きのパーカーを着込み、その裾からはシルバーのウォレットチェーンが見え隠れしていた。
歩く度にチェーンの音がしていて、すぐに彼だと分かった。
彼の家は父子家庭というやつだった。
まだ幼稚園に通う妹と看護師をする父親の3人で暮らしていて、夜勤など帰宅時間がまばらな父親に代わりよく妹の世話をする良き兄貴だった。
彼のウォレットチェーンが亡くなった彼の母親が彼に最期に贈ったプレゼントだと知っていたのは学内では私達だけだった。
椿は見た目は地味系女子だったけれど、実際は全く違う美人だった。
彼女の両親は彼女が小学生の頃に亡くなり、今は叔父夫婦に引き取られ生活している。
というものの、叔父夫婦はもともと近くに住んでいたらしく、転校などをすることはなかったそうだ。
聖夜と椿は幼馴染みだ。
2人はまるで兄妹のようだった。
聖夜と聖夜の妹と椿が3人でいると、余計にそう見えた。
彼らはそれほどに仲が良かった。
悠生は可愛い見た目の男子だ。
唯一、私をちゃん付けし、隙があれば甘えてくる子だった。
悠生には年の離れたお兄さんがいて、彼はお兄さん子だったらしい。
両親は優秀なお兄さんに全てを賭けていたと言っても過言ではない程にお兄さんをたいそう可愛がっていた。
その頃、お兄さんが悠生を可愛がっていた所為か、両親も悠生にそれなりの愛情を持って接していたらしい。
そのお兄さんが悠生が中1の時に交通事故で亡くなった。
それから、悠生の両親はお兄さんの死を忘れるように仕事にのめり込み、悠生を見ることがなくなった。
中学生とは言え、それまで、兄と共に過保護とも取れる愛情に包まれ生きてきた悠生にとって、突然見放されたようなものだった。
悠生が愛情を求めたのは周りに対してだった。
愛らしい容姿に本音を隠し、愛でられることを望んだ。
私達と悠生が出会ったのは、彼がその生き方に染まっていた頃だった。
一目で彼の笑みは違うと思った私は彼に近付くことを良しとせず、避けて通っていた。
転機はサボりに入った資料室でだった。
いつもは着崩すことなく着られている制服が着崩され、その手には顔に似合わない煙草。
本当は口に合わないんだなと分かったのは、その目が涙を溜めていたから。
演技のない彼がこれほどなく、寂しそうで、支えなければ折れてしまいそうに見えた。
その日から、悠生は私に執着し始め、彼を愛でていた少女達を振り向かなくなっていた。
後に、彼は言った。
「僕ね、あの日、煉ちゃんに一目惚れしたんだよ。一番格好悪い僕に煉ちゃんは凛としてて、この子は本当の僕を見てくれるって直感的に思ったの」
照れながら言う悠生は愛らしかった。
そんな彼らと私は毎日を過ごしていた。
椿は従弟の影響で少年マンガを愛読していた。
一人暮らしをしていた私の家に持ち込んでは、悠生と2人で読み、あぁだこうだと言って話すのが日常の光景だ。
そんな時、彼女が進めてきたマンガがテニスの王子様というマンガだった。
有り得ないような技の連発されるマンガはスポーツものというよりもファンタジーだと悠生が言ったのに激しく同意したのは記憶に新しい。
影響されやすい彼女がテニスをしてみたいと私を誘い、結局4人でテニスをした。
あの人間離れした技を完璧に再現することは出来なかったけれど、もどきなら出来るようになったのは、椿と悠生が熱心に私に模倣させようとしたからだろう。
そんな話は置いておこう。
とにかく、テニスの王子様ことテニプリは彼らのブームだった。
キャラクター達が魅力的だったのも、理由だろう。
一人一人贔屓校というものがあった。
私は物語を見る方に重点を置いていた所為で、あまりキャラクターに目を向けていなかったが。
椿は立海で、悠生は四天宝寺、聖夜は不動峰。
椿は立海の部長を贔屓にしていた。
病に倒れながらも凛とし穏やかさも兼ね備えた彼の芯の強さに憧れたらしい。
悠生は四天宝寺の部長の完璧さを崩したいと笑顔で言ってのけた。
完璧を崩したいというのは、わからなくもないが、口に出していいものではないような気もする。
聖夜は不動峰のスポ根らしさを贔屓にしていながら、キャラクターとしては氷帝の敗者切り捨てから復活するレギュラーは格好いいと言っていた。
各々の主張を聞いて、相槌を打つのが私だった。
そんなこんなで、私はテニプリと出会っていたのだ。