短編 | ナノ

 いつかに咲きし曼珠沙華



帰って来られますよね?また会えますよね?
そう聞いたのは、あの方がもう生家であるこの家に戻られないのではないかと思ったからだ。
狒々様の御嫡男であられる猩影様は、予てより人の世界に生きたいと言っておられた通り、大学進学を早々に決め、一人暮らしをするのだと山梨にある狒々組を出られた。
狒々組は今危機に陥っていた。
狒々様には屋敷の奥に入っていただいた。
わしも暴れるんじゃと駄々っ子のようなことを言われていらっしゃったが、此処は、狒々組は狒々様あってこそ。
狒々様に何かあって、私共が生き残れば、それこそ、猩影様にも狒々組が傘下としておさまっている奴良組にも顔向け出来ない。


「狒々組は私がお守りするまで」


獣の本性ではなく、人型のまま握ったのは双剣。
徒人には重たいそれは、妖怪であるからこそ持てる代物だ。
これを握っては猩影様に稽古をつけた日々を思い出す。
鎌鼬の風に似た攻撃を態と受ける。
受けた途端に毒風だと気付いたけれど、敵が私の罠に掛かったのも同時だった。


「狐火-不知火-」


敵の攻撃であった毒風を逆行し焔が走った。
紳士然としていた敵が引き攣れた悲鳴の様な声を上げる。
こちらは殺す気で攻撃したというのに、致命傷には到らなかったようだった。
けれど、大怪我は負わせた。


「ははっ」


毒が回る。
攻撃をする為に動いたのもあって、回るのが早い。
遠ざかり消えた敵の妖気に、私は満足感を感じていた。


「おま、も、り…出来ま、‥た」


双剣を地に刺し、それを支えに立つしかなく、もう自分では立てなかった。
大好きな狒々組を守れた。
私の大好きな妖怪達がいる此処を守れた。
集中力が離散し、人型が解け、本性の獣に戻った。
バタバタと廊下を走る音がする。
一際大きなその足音が誰の物かなんて、私はすぐに理解出来た。


「…ろ…か、は‥っちゃ、駄、…目」


猩影様が真似をするから止めてくださいって何度も何度も言ったのに、結局止めてくれませんでしたね、狒々様。


「音子!」


怒鳴り声なんて珍しい。


「目ぇ開けろ」


いつものカンに障るくらいの余裕は何処にいったんですか?
ね、狒々様。
もう目を開けることは出来そうにないので、その命令は聞けないんです。
私は、とてつもなく幸せでしたよ。
狒々様に拾われて狒々組で過ごした時間は私が生きてきた中で一番楽しかったから。


「…し、あ……せ、‥で……た」


我が儘を言うなら、最期に、最期にもう一度だけ、貴方様にお会いしたかった。


「しょ…え‥ー、さ…ま」


口角を少しだけ上げた解りにくいけれど、優しい微笑みで笑う貴方様を御慕いしておりました。




いつかにきし曼珠沙華
(狐の亡骸に添えられたのは狐の灯り)
write by 99/2011/12/15






猩影くんが格好良すぎるよ…!
H×Hを録って一緒にやってたからたまたま見たら、案の定ハマッた99です。
H×Hは捨てたけど、労働2期とぬら孫の為に録画中。
でも、保存用の録画はBSで。
猩影くん格好良すぎるよ、ホンキで。
収入入るようになったら漫画買う←
鯉伴様も好きです。
だって藤原さん…!
なんて言っておいて、愛が暴走した結果、猩影くんが出なかった←
音子ちゃん何故死んだし…!(お前が書いたんだよ)
余りにも救われない報われないな展開なので、猩影くん視点をリベンジる予定。



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