◎ この手でいいなら守りたい
彼は彼女を選んだ。
彼女は彼を選んだ。
あたしは彼を選んだのに、誰にも選ばれなかった。
3人が、2人と独りになった。
たったそれだけの話。
この結末だって、最初から解りきっていたことだった。
予定調和としか言いようのない、希望的観測の入る余地などない、そんな話。
だって、最初から、彼女は君を選んでいたし、彼は彼女を選んでいたのに選んでないフリを続けていただけだったじゃない。
あたしの入る隙なんてどこにもなかった。
そんなことは知ってたよ。
知っていても、あたしはあたしを止める術を知らなくて、彼の鏡の向こう側だって殺人鬼の言葉を借りるなら、最初からレールの上だったのだろう。
暴走列車は停まらない。とまらない。とまらない。
「で?何のようかな?」
廃ビルの屋上で密会なんてロマンチックだね。
なんて、戯言か。
ふふ、あたしにはやっぱり似合わないね。
なんて、言ってみた所で、笑い事にもなりゃしない。
「ね?零崎くん」
手を伸ばせば届くそんな距離にいた殺人鬼に言葉を向けても、零崎くんはいつものようにその顔面に入った刺青を歪めて笑うことはなく、何だか凄く惨めな気分になった。
それを知ってか知らずか、零崎くんはやっぱり笑わない。
笑わない零崎くんを見てると、まるでいーくんと居るようなそんな気分になる。
「無理してまで笑うなよな」
私には決して触れず、でもまるで抱きしめるように柵に手を付き私を囲った零崎くんは、真剣な顔をしていて、それだけなのに、私は泣きそうだった。
彼も彼女も流さない涙を流せる私が、私は大嫌いだった。
非凡の塊のような彼女と、平凡なのにやっぱり非凡に近く生きていた彼。
対して、言葉には幼なじみと言えたのに、平凡で平坦で平穏な生活しか出来なかった私。
彼はそんな私がいるから良いんだよと言ったけれど、私には何の慰めにもなりはしなかった。
だって、結局、結果、結論、彼は彼女を選んだ。
「泣いちまえよ、音子ちゃん」
「やだ」
「泣かしてやんよ?」
訊かないでよ。
泣かしてくれるなら、勝手に泣かせればいいのに。
そういう所が意地悪で歪んでるんだよ。
なんて、もう私は言葉に出せなかった。
「おっと」
零崎くんに体当たりするように飛び込んで、服を思いっ切り握りしめて泣いた。
「かはははは」
そうなってはじめて、零崎くんは抱きしめて、私の背を撫でながら、いつものように声を上げて笑った。
この手でいいなら守りたい(殺人鬼が"守る"なんて傑作な戯言だけどな)
「傷は痛み続けてる」(c)ひよこ屋write by 99/2011/10/14
なんだこれ。
最初は友ちゃんに少し似ててでも普通な音子ちゃんを友ちゃんの代わりにしてるいーちゃんみたいな最低ないーちゃんの話だった筈なのに、書き上がったら、友ちゃんといーちゃんの純愛に片想いの音子ちゃんを人識くんが落としてたwww
いーちゃんから人識くんって音子ちゃん、ちょっと最低な気もしますが、まぁ人識くん的にはしてやったりな感じなのかも。
丸くおさまってハッピーエンド!ならいっか。
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