短編 | ナノ

 さぷらいず!



いつもより10分早く起きれたのに、母さんも父さんも姉ちゃんも信じられねぇって顔するし、母さんにいたっては体温計持ってきた。

朝から悪意のない嫌がらせを受けてたら、結局いつもの時間で、朝練に遅刻。

いつも通りに真田元副部長の制裁を受けて、柳先輩の説教を正座で聞かされて、柳先輩の後ろで静かに笑んでる幸村元部長に怯えながら、部長として朝練の開始を他の部員に言い渡した。

休み時間に丸井先輩に貸したままの辞書がないのに気付いて、3年B組まで返してもらいに出向いた。

そしたら、丸井先輩は居なくて仁王先輩にやたらと絡まれて、たまたま仁王先輩を訪ねて来てた柳生先輩が気の毒だと辞書を貸してくれた。

一年で一度の誕生日だってのに、仁王先輩に絡まれると、ホントマジついてねぇ。

丸井先輩はジャッカル先輩のクラスで見かけたけど、本鈴がなるまで時間がなかったから、声もかけずに見なかったフリをした。

そういや、今日は音子先輩に会わなかった。

いつもなら、朝練にも来てくれるし、B組に行ったら絶対っていいほど居るのに。

今日はホントについてねぇ。

放課後は先生の会議の都合とかでコートが使えねぇからって部活なしになるし。

てわけで、俺はまっすぐ家に帰ったわけだ。



「なんで、誰も居ねぇわけ?」



俺の呟きは誰も居ない家に消えた。

いつもなら、誰も居ないなんて嬉しいくらいでリビングのテレビでゲーム出来るとかそんな風にしか思わないのに、今日はそんなこと思えなくて、なんでか涙が滲んできた。



「っ…」



泣きそうになってる自分が悔しくて、乱暴に腕で目元を拭う。

瞬間、音子先輩に設定した着メロが制服のズボンのポケットに突っ込んだままの携帯から鳴り響く。

ずずっと鼻を鳴らして、電話に出た。



「はい」

『赤也、玄関の鍵しめた?』

「あ……しめてません」

『不用じーん』



あははと音子先輩の明るい笑い声が耳に聞こえて、さっき拭いた涙がまた流れた。

電話の向こうは外になのか、ざわざわと騒がしい。



「先輩、今どこッスか?」

「赤也の後ろだろぃ」

「は?」



急に聞こえた丸井先輩の声に振り向けば、ニィッと笑った丸井先輩とその肩に手をかけて凭れるように立ってる仁王先輩。

その隣に携帯を耳に当てたままニッコリ笑う音子先輩。

3人の後ろにはレギュラーが全員居た。



「せんぱい…?」



涙がボロボロと零れるのを感じたけど、気になんなかった。



「ちょっと、赤也!?」



驚いた声を上げた音子先輩に抱き付いて、思いっきり泣いた。

柳先輩が仕方ないって顔をして頭を撫でてくれて、楽しそうに笑った幸村元部長に音子先輩ごと抱き締められた。



「赤也」



音子先輩の声に抱き付いてた力をちょっと強くする。

先輩が苦笑したのか、抱き締めた身体が揺れた。



「Happy birthday」



綺麗な発音の英語に俺はまた音子先輩の肩に顔を埋めて泣いた。



さぷらいず!
(「俺の苺っ!」「早いもん勝ちだろぃ」「丸井、今日の主役は赤也だよ」)
Happy birthday to Akaya Kirihara 2009
write by 99/2009/10/03





ブンちゃん特製ケーキでお祝いするんだと思います。
赤也の家族は先輩の根回しで家を提供する事になってるので、帰ってきません。
真田パパは赤也の涙にどうすることも出来ずにテンパってると思います。
可愛いな、真田パパ(笑)



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