短編 | ナノ

 三年目の終止符



この教室に残るのは久しぶりだ。

テニス部が引退してからはじめてかもしれない。

いつも私はこの教室でテニスコートを見つめていた。

気付かれもしない想いを抱えて。



「お待たせしてしまいましたか?黒井さん」

「柳生君、来てくれてありがとう」



いつもと同じ笑みを浮かべた柳生君に微笑んでみせる。

彼とこうして笑い合えるのは今日が最後だろうから。

クラスメイトだったから、少しだけ他の人より近かった距離を私は自ら手放してしまうのだから。



「柳生君、2つ言いたいことがあるの。まずは誕生日おめでとう」

「ありがとうございます。まさか、黒井さんに祝っていただけるとは思いませんでしたから、とても嬉しいです」

「そっか、喜んでいただけたなら光栄だよ」



社交辞令だろう柳生君の『嬉しい』に私は苦く笑った。



「2つ目は…」



今更ながら、この関係を壊したくなくなってくる。

それでも、決めたんだ。

入学式の日に転けそうになった私を助けてくれた柳生君を好きになってから、次の春で三年だ。

三年も想ったから、そろそろ終止符を打とうって。



「あのね…私、柳生君がね、」

「黒井さん、好きです」

「そう、好き…………え?」



だんだんと俯きがちになっていった顔を思わず上げた。

その先には夕日の所為だけじゃなく赤く染まった顔で少し恥ずかしそうに目線をさまよわせている柳生君がいた。



「今…」

「私は貴女が好きです。貴女は覚えていないかもしれませんが、入学式で貴女を助けた時からずっと貴女だけを想っていました」

「入学式…覚えていて」



覚えていてくれた。

それだけで涙が溢れそうになる。



「黒井さん」

「柳、生君…、私も入学式で貴方に助けてもらってからずっと貴方が好きです」



涙が溢れて、うまく言葉が紡げなかったけれど、柳生君に伝わっただろうか?



「黒井さん、私達は同じだったんですね」



伝わったようだった。



「黒井 音子さん、私とお付き合いしていただけますか?」



差し出された手にそっと手を添えて、



「喜んで」



微笑んだ。




三年目の終止符
(「帰りましょうか」手を繋いだまま)
Happy Birthday to Hiroshi Yagyu 2008
write by 99/208/10/19




まさかの柳生ハピバSSです。
跡部も手塚も宍戸でさえスルーしたのに!
さらに言うなら、赤也は気付いたら過ぎてた(ぇ)
柳生好きな友人に捧げます(わかるかな?)
どSじゃないがな(苦笑)




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