短編 | ナノ

 恋は突然、嵐の後に。



警察署なんて一生縁のない場所だって思ってた(いつも逃げ切れるって思ってたから)

しかも、喧嘩に巻き込まれたって、なんとも言えない感じ。

巻き込まれたっつぅのもおかしいか。

俺、自分から巻き込まれちゃってんだから。



「大丈夫かよぃ?」



長椅子に並んで座るクラスメイトに問いかける。

俯いた黒井は小さく首を縦に振る。



「大丈夫」



あぁ大丈夫なんだ。

つぅか、平気じゃないだろうな。

微かに身体が震えてるし。

立海の女子っつったら、氷帝ほどじゃねぇけどお嬢様がそこそこ居る。

それ狙いのナンパなんてしょっちゅうだって聞くし、多分、今日のもその類だ。

絡まれてた黒井を助けようとして、このざま。

たまたま通りかかった仁王と比呂士が警察呼んできて、仁王が見事な口述で俺達は被害者だって証明してくれたから良かったんだけど。



「丸井君のご両親には先に私達からご連絡させてもらいましたよ?」

「サンキュ」

「黒井んとこは警察からいくと思うんじゃが…」



仁王が言葉を濁す。

不審に思って俺の前に立ってる仁王を見上げれば、その目線は黒井に向けられてた。

カタカタとさっきより震えが大きくなってる。



「音子!!」



バタバタと走る音が聞こえる。

その足音が大きくなって、すぐそこの角からエリートって言葉の似合う男女が現れる。

黒井の名前を叫んでたから多分黒井の親。



「音子っ!!」



黒井を目に入れたのか、黒井の名前を叫んだ。

叫んだ?

怒鳴ったってのが正解じゃねぇの?俺。



「黒井さんのご両親ですか?」



柳生が2人に声をかけたが、ツカツカと革靴を鳴らして寄ってきた2人には聞こえてないみてぇだった。

顔が半端なくこえー。


パシンッ


響いた音は聞き慣れた音だった。

ただその光景にはズキッと胸が痛んだ。

柳生も仁王も同じだったのか、眉をしかめ、表情が歪む。



「あんたって子は!!」

「俺達に迷惑しかかけられないのか!!」

「警察から電話なんて、どれだけ恥ずかしかったか、あんたにわかる!?わからないでしょう!!」



ヒステリックに黒井の両親は叫び続けた。

その間、平手打ちを食らわされた黒井はずっと震えながら下を向いていた。



「ちょっと待てよ」

「なにっ!!」



黒井に怒鳴る調子のまま、黒井の母親が俺に噛みつくように答えた。



「親なら真っ先にやることあんだろ?親なら…親なら真っ先に怒鳴るんじゃねぇよ!!大丈夫かって抱き締めてやるのが親だろ!!」



ムカついた。

さっきまで震えてた黒井が更に震えてたから。

女に、自分の子供に、躊躇いなく、思いっきり、平手打ちを食らわすなんて、まともな親のすることじゃねぇ。

せっかく助かったのに殴られたんじゃ、絡まれてた黒井を助けた俺がバカみてぇだ。



「わかったような口きかないで頂戴」

「お母さん…」

「あんたの友達だけあって本当ムカつくわね」



ガタンッと音を立てて、黒井が立ち上がった。

俺はただ黒井を見つめる。



「丸井君達を悪く言わないで。善意で助けてくれた人を悪く言わないでよっ」



小さな叫び。

それが俺には嬉しかった。



「ふんっ。ウッザいわね。とにかく手続きはしてあげるから、1人で帰ってくるのよ?いいわね!」



ツカツカと来たときとおんなじように黒井の親は帰っていった。

嵐が去ったみてぇ。



「黒井、その、ありがとな」

「え?」

「庇ってくれたろぃ?」



ニィッて笑うと、黒井に絡んでた連中に殴られた口端がちょっと痛かった。



「助けてくれたから」



そう言った黒井が少しだけ笑んだ。



「〜〜〜〜〜っ」



なんとも言えない感覚。

今、俺の顔赤ぇし、絶対。

なんつぅか、マジ可愛かった。

やべぇ…。




恋は突然、嵐の後に。
(「ブン太、迎えにき…って、あんたなんて顔してんの」)
write by 99/2008/08/12





長いよ!!
昼ドラの五つ子の予告を見て思いついた物。
ふとした笑顔に惚れればいいよ、ブンちゃんは。
ブンちゃん微妙に殴られた後だったりします。
柳生が警察を呼んで、その間に仁王さんは応戦しただろう。
で、口八丁手八丁で警察をも丸め込む詐欺師仁王(笑)
警察も騙せちゃうんだよ、仁王は。ってのが書きたかった。
だって、悪魔も騙せるらしいから(幸村談)
ブンちゃんは親が来るまで顔真っ赤(笑)
それ見てヒロインも赤くなればいい。
初々しい二人に内心大爆笑な仁王と微笑ましそうに見てる柳生という構図が頭に浮かんでました。



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