短編 | ナノ

 ラストチャンス・SOS



遠くで雷の音が聞こえてる。

他に音はない。

いや、音がないというのは正確じゃない。

ただ、私の耳には聞こえてはこない。



「黒井先輩」



ぼんやりしていたところに声をかけられて振り返る。

そこには男子テニス部の次期部長と噂される日吉くんがいた。

彼は一度委員会が一緒だった所為か、同級生の男子テニス部のメンバーよりも話をする存在だ。



「どうしたの?」

「ここを通りかかったら、黒井先輩が見えたので」

「気まぐれ、…ね」



嫌みで言ったわけではない。

彼には嫌みに聞こえたかもしれないが。

ただ、日吉くんが偶然通りかかったところにいた知り合いにわざわざ声をかけるようには思えないからだ。



「黒井先輩が…」



ポツリと、雷の音にも負けてしまいそうな声で私の呼称が紡がれる。



「私が?」

「声をかけなければ、このまま消えてしまいそうに見えたんです」



真っ直ぐに鋭い日吉くんの視線が突き刺さる。

彼は目を逸らすことをしない人間なのだろう。

都合の悪いことは見て見ぬフリのこの社会で、彼はそれをしない。

強い人、なんだ。



「ねぇ」



彼と視線を絡ませる。

口端を吊り上げて、笑みを作った。



「私を助けてくれる?」



ピカリ、雷が曇天の向こうで光った。




ラストチャンス・SOS
(それは裏切られた末の最後の賭)
write by 99/2008/07/31







なんかネガティブ思考が影響されてます。
この間、久しぶりに雨が降りまして、その影響も出てますね。
嫌われ的な感じです。
信じてたけど裏切られて、好きだった仲間を憎みきれない主人公と、真実はわかっているけど何もできないし、するつもりもなかった日吉。
多分、滝さん辺りが主人公と日吉の変化にいち早く気付いて、参加してきます。
滝さんは傍観者を気取った味方が似合う(って、日吉SS!)



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