短編 | ナノ

 女神のゆくえ




「良い知らせと悪い知らせ、どっちから聞きたいッスか?」



俗に言う天使みたいな笑顔で悪魔みたいな後輩がそう言った。



「良い方」



そう言うと、後輩こと切原は不思議そうな顔をする。

私からしてみれば、今の切原の顔の理由こそ不思議なんだけれど。

そういえば、嫌なことは後回しにすると碌な事がないから、大抵の人間は嫌なことから聞きたがるんだって柳が言っていたような気がする。

逆の人間は捻くれ者の確率が高いって付け足されてたような…。



「で、何なの?」

「あ、良い方ッスよね?幸村部長の復帰日が決まったんスよ!!」

「へー」



少し懐かしささえ感じるボタンを押す仕草をしてみる。

懐かしさは幸村にも感じるんだけど、ね。



「で、悪い方は?」

「音子先輩、反応薄くないッスか?」

「だって、私、今はテニス部ってわけでもないし」



前はテニス部でマネージャーをしていた。

でも、去年の全国大会を前に辞めたんだ。

理由はレギュラーとの信頼関係を築けないと感じたから。

私からしてみれば、顔が良かろうが、テニスがうまかろうが、同じ年の部活仲間だった。

でも、アイツらは違ったんだ。

幸村や柳はまだ良かった。

それは切原にも言える。

それに辞めても切原は私を慕ってくれたし。



「音子先輩、戻ってきません?」

「もう引退だよ?切原」

「そうッスけど…」



戻ってこないかと言ってくれたのは、切原だけじゃない。

幸村も柳も言ってくれた。

レギュラー以外のテニス部員もそう言ってくれた。

でも、私は頑として戻りはしなかった。



「で、切原」

「はい」

「悪い知らせは?」



そう言えば、切原はあぁと苦笑した。

切原が入学してきた頃から知ってるけど、あどけなさが抜けてきたみたい。

なんか、寂しい…かも。



「音子先輩、関東決勝来ました?」

「いや、その日は法事で行けなかったよ」

「じゃまだ結果知らないッスよね?」

「うん」



だんだん、切原の言う悪い知らせが怖くなる。



「俺ら、負けちまいました」

「え…?」



常勝を掲げていた彼らが負けた?



「………」

「先輩…?」



なんで?

あんなに頑張っていたのに。

切原だけじゃない。

幸村がいないから、みんな人一倍頑張っていた。



「音子先輩、泣かないでください」

「切原…」



熱いものが、頬を伝った。



「音子先輩、全国は優勝するッスよ」

「切原」

「だから、だから、」



切原の目が赤い。

試合の時とは違う赤。

あぁ切原も泣いたんだね。



「切原なら勝てるよ」

「先輩」

「切原なら勝てる」



癖のある黒い髪をかき混ぜた。



「切原なら勝てる」




女神のゆくえ
(「戻ってきてください」勝利の女神なんスから)
write by 99/2008/05/28





長編にしたいネタだったんですがね(苦笑)
オチを選べる長編がやりたかった…。
まだ、やりたいんですけど。
ただ、立海ネタばっかなんで、自重してみた(苦笑)



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