短編 | ナノ

 ケーキ=部活≧私>彼女



目の前で笑う幼なじみは本当に幸せそう。

そんな姿に思わず溜息が零れた。



「なんだよぃ」

「なんでもないよ、ブンちゃん」

「そぉかぁ?」



口では納得してない風だけど、その手は次のケーキ(ショートケーキ)に向かっているところを見ると、相変わらず、“ケーキ>私”だな。



「音子」

「なに?」



ケーキの種類を思い出しながら、合いそうな紅茶を淹れていたら、私の名前が聞こえて、キッチンからダイニングに座ってケーキを貪ってるブンちゃんに視線を移す。

あ、ほっぺたにクリームついてる。



「お前も食べねーの?」



そう言いながら、さっき食べてたショートケーキはもうブンちゃんのお皿にはなくて、箱から次のケーキを物色してる。



「ブンちゃん全部食べたいでしょ?」



クスリと笑えば、ブンちゃんがムスッとした顔でじぃっと私を見てた。

その顔にはまだクリームがついてる。



「食べたくねーの?」

「そういうわけじゃないよ」



自分の愛用カップとお客さん用のティーカップ、紅茶の入ったティーポットをお盆に乗せる。

ついでに絞ったばかりの布巾もお盆に乗せた。



「ブンちゃんがケーキ買ってうちに来る時は自分が食べたいなっていうのを買うでしょ?」

「まぁな」

「だから、ブンちゃんは食べたい分だけ食べなよ」



コトリとカップを置いて、ブンちゃんのほっぺたに手を伸ばす。

ビクリとブンちゃんの肩が揺れたのは気のせいなんかじゃない。



「クリーム。子供じゃないんだから」



クリームを指で取って、そのまま布巾で指を拭いた。

そのまま食べるなんて絶対にしない。

だって、私は“ブンちゃんの彼女”じゃなくて、“ブンちゃんの幼なじみ”なんだから。



「なぁ音子」

「なに?」



さっきとは違って、優しくブンちゃんに視線を向ける。

ブンちゃんの表情がどこかムリヤリ作った顔なのは、わざと指摘しない。

それは、ブンちゃんがその理由に私が首を突っ込んでいいと許可したら。



「俺、わかんねーよ」

「なにが?」

「アイツ、俺がアイツを好きじゃないって言うんだぜぃ?」



ブンちゃんの言うアイツはブンちゃんの彼女だ。

学年でもそれなりに可愛いと評判の子。



「何したの?」

「何って、あっちが一方的にデートしたいって予定してた日に幸村くんトコ行くことになったから」

「精市くんトコ行ったんだね」



コクリと肯いたブンちゃんに苦笑してしまった。

彼女の気持ちもわからなくないし、ブンちゃんの気持ちもわからなくはない。

ブンちゃんは付き合う時に部活関係優先で良ければっていう条件を出す。

プラス、好きになれるかわかんないってのも。

でも、プラスの方を私は知らないことになってる。



「駄目なのか?部活優先しちゃ」



捨て犬みたいな顔、しないでほしい。



「音子」

「ブンちゃんがしたいようにしなきゃ駄目だよ?」



この幼なじみは事ある毎に私に助けを求めてくる。

それは恋愛事であったり、友人関係であったり様々だ。



「俺がしたいように…」

「そう」


ムゥと考え込みだしたブンちゃんを横目に、カップに紅茶を注いだ。



「俺、アイツと別れる」

「そう」

「とめねーのかよぃ?」



私側にあったブンちゃん用にいれた紅茶のカップをブンちゃんの方に差し出す。



「とめてほしいの?」



首を傾げてそうきけば、ブンちゃんはフルフルと横に首を振った。



「私はブンちゃんが決めたなら、それでいいと思うよ」

「じゃあさ」



どこか決意したような眼差しでブンちゃんが私を見た。



「俺が音子と付き合うっつったら、お前は付き合ってくれんのかよぃ?」

「付き合わないよ」



サラッと答えた答えは嘘。

でも、本当。



「ごめんね、ブンちゃん」

「好きな奴でも、いんの?」



それには答えられなかったから、苦笑で返した。

好きなのは、ブンちゃんだよ。

とは、言えない。

言いたくない。

そんな休日の2日後、ブンちゃん達が別れたという噂が瞬く間に学校中に広がっていった。





ケーキ=部活≧私>彼女
(一時の恋人より、永遠の幼なじみでいたいから)
write by 99/2008/05/16





難しい選択だと思います。
恋人は別れてもう一度会うのに勇気がいるけれど、友人のままなら別れるということがない。
音子ちゃんは友人でいることを選んだんです。
結局は両想いなんですが、この2人。



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