短編 | ナノ

 初恋ジンクス



放課後の教室。

夕日の光が窓から入って、ちょっとロマンチックな感じで、そんな場所に男女が2人。

そんなベタな環境を整えてしまったのは、紛れもない私自身。

ただし、意図的にではなく、あくまで偶然だ。



「黒井さんは何をしちょったん?」



こんな時間まで。

多分、この言葉が省略されてると思う。

目の前にいるクラスメイト、仁王 雅治くんがにやけながら言った台詞には。



「たまたま…かな?」

「ほー」



信じてない、絶対。



「仁王くんは部活だよね」

「よぉわかったの」



普通はわかるよ。

ジャージ着てるし、ラケットが入ってるだろうバックも担いでるし。

ただ、なんで教室にいるのかがわかんない。



「この教室からコートが見えるじゃろ?」



コクリと一つだけ頷く。

そんなの、周知の事実だ。

3年が使う校舎はコートに近くて、各教室の窓から練習風景が見えるのなんて、みんな知ってる。

コートの周りに集る勇気のない子はみんな教室からこっそりお目当てくんを見つめてるんだから。



「逆もまた然りじゃよ」



逆?

と言われたことを反復する。

気付いたのは、コートからも教室の様子が見えるんじゃないかってこと。



「黒井さんが、コートから見えたんじゃ」

「え?」



なんとなく合わすことの出来てなかった目線が、合う。

視線が絡んだ。



「好ぃとぉよ、黒井さんを」

「じょ、じょーだんっ」



信じられるわけがない。

平凡で何の取り柄もない、極々普通の私を、立海じゃ超が付くほど有名人な仁王くんが好きだなんて。



「信じられんか?」



そう言われて、迷わず頷いた。

ガンと音がする。

背中が痛い。

目の前には、キラキラ光るオレンジ色に染まった銀。

隙間から覗いた金の目を見た瞬間、息が詰まった。



「本気じゃ」

「…っ」



何も言えなかった。

ただ、涙が溢れる。

机に押し倒された状況で、痛いのは背中じゃなくなっていた。



「なんで、泣くんじゃ」

「痛いよ」



痛い。

仁王くんを信じられなかった自分に腹が立って、はじめて真正面から見た仁王くんの瞳が真剣すぎて、胸が痛い。



「…すき」

「は…?」



溢れ出た言葉は、本当の気持ち。

2年越しの想い。



「ホンマか?」



コクリ、頷いた。

グイッと腕を引っ張られて起き上がった私は、仁王くんの腕の中。



「ダメじゃ、嬉しすぎるぜよ」



ギュッと抱き締めて呟いた仁王くんの背に腕を回す。



「好きになってくれてありがとう」

「こっちの台詞じゃ、音子」



はじめて仁王くんに呼び捨てにされた名前はなんだか気恥ずかしかった。



「初恋は実らんなんて嘘じゃな」

「え?」

「心から好きになったんは、音子がはじめてじゃよ」



真剣にそう言われて、真っ赤になった。

だって、私も仁王くんが初恋だったから。



初恋ジンクス
(初恋が実らないなんてジンクスぶっ飛ばしちゃるよ)
write by 99/2008/05/16





におの口調が合ってるのか甚だ疑問ではありますが、まぁいっか(ぇ)
私、仁王を「にお」だと真剣に思ってた。
みゅ映像見るまで、「におう」だって知らんかったよ(フリガナはちゃんと読もう)
未だに仁王を「にお」と呼びます。
「におう」って呼びにくい(言っちゃった)



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