短編 | ナノ

 真の悩みは別にあり




「それが、一過性の物であるならば問題はない」



そう言った柳君は、普段見せない瞳をこちらに向けていた。

鋭く、でもどこか暖かい視線は、何もかもを見透かされているような気になる。

それは柳君のデータという性質の所為かもしれないけれど。



「ただし」

「ただし…?」



視線が絡んだまま、続けられた言葉を繰り返す。



「一過性でなく、真性の物であったなら、多少問題ではあるな」



お前はどっちだろうな。

言外に柳君の視線がそう言っていた。



「わからないよ」



自分がどちらかなんて。

わからないから、柳君に相談したんじゃない。

結局、明確な答えは得られなかったけれど。



「まぁ聞け、音子」

「うん…」



落ち着けとばかりに呼ばれた名前はどこか心地良い。



「俺はお前の友達であることに変わりはない。もし、お前が犯罪者になろうとだ」



そう言った柳君はいつもと変わらない、瞳を隠したあの表情をしていた。

どうしてかな、柳君。

あなたはいつも欲しい言葉をくれるの。

それもデータから算出された言葉なのかな?

そうだとしても、柳君にしか言えない言葉だよね。



「ありがと、柳君」



泣き出した私を慰めるでもなく、呆れたような溜息を零した柳君は、優しい人だと思った。

窓の外からは部活開始を告げる真田君の声が響いていて、それでも、泣いている私を置いて行くような真似はしない柳君は不器用で、それ以上に相談というこんな形でしか柳君と2人っきりになる方法を思いつけなかった自分が滑稽だった。



「黒井」



俯きがちになっていた顔を上げると、柳君は優しく笑った。



「あまり泣くと瞼が腫れる」



瞼に触れた柳君の指は冷たいのに、そこから熱が広がった。



真の悩みは別にあり
(ホントの悩みはどうづればアナタの恋人になれるのか)
write by 99/2008/05/16





参謀相手に恋愛は至難の業だと思う今日この頃。
けんとサンの参謀をみる度に、参謀を好きになります(みゅかよ)
主人公が何の相談を持ちかけたかは想像にお任せいたします。
一過性じゃなくて真性なら犯罪者になる可能性が出てくるような悩みって限られてくるよね、うん。
つか、そんな悩みは普通は相談しないから。
むしろ、好きな男にしちゃいかんだろう。



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