◎ 残された選択肢
「好きです!付き合ってください」
頬を染めてそう言ったのは、3年の間、俺達男子テニス部を支えてくれたマネージャーだった。
俺を好きだってことは知っていたし、いつか言われるだろうことも分かっていた。
なんせ、親友と言ってもいいだろう友人が、あのデータマン様なのだから。
「ごめん」
嫌いではなかった。
むしろ、好感は持っていた。
いくら俺を好きだと言っても、彼女は公私混同することなく、しっかり仕事をしてくれていたから。
「付き合ってる人、いないよね?」
なんで私じゃ駄目なの?
彼女の声ならぬ声が聞こえた。
「付き合ってる人はいない。でも、好きな子はいる」
はっきりと言い切る。
それが彼女の為だろう。
そう言った瞬間、彼女は目に涙を溜めて走り去った。
「あーあ、泣かせたー」
棒読みで聞こえた聞き覚えのある声に振り向くけれど、声の主はどこにもいなかった。
ふと、視線を上に上げたら、俺が立ってる横の木の枝に足がブランと垂れ下がる。
「盗み聞きとは悪趣味だね、音子」
「女の子泣かせるよりマシですよ、幸村くん」
ニヤニヤ笑ってるだろう音子の顔は想像に容易い。
ブランブランと足が前後に揺れたと思えば、音子は俺の横に飛び降りてきた。
「つかさ、幸村って好きな奴いたんだね」
いつもならこんな話題が出たら、仁王を彷彿とさせるニヤリと人の悪い笑みを浮かべるのに、今日の彼女はそんな表情ではなく、きょとんと純粋そうな顔をしていた。
「君が言うこと?」
「私がなによ」
「俺の告白を毎回もなかったことにしてる音子に言ってほしくないな」
そう言えば、音子はばつが悪そうな顔をして、視線をさまよわせた。
「音子」
音子を呼べば、女の子らしくビクリと跳ねる肩が、なんだか“らしく”なくて、面白い。
チャンスかもしれない。
なんて思った俺は音子を木へと追い詰める。
「ゆっ幸村っっ」
焦る音子に普段の男勝りな表情はない。
トンッと音子の顔の横に手を突いて、逃げ場をなくした。
「ねぇ、音子」
真っ直ぐに音子を見つめる。
居心地悪げにおどおどとこちらを見つめる音子の瞳が揺れた。
「好きだよ」
「っ……」
耳元に囁いて、音子の表情を横目で窺えば、頬も耳も、首もとまでもが真っ赤に染まっていた。
「今日こそはちゃんと返事してもらうからね」
そうしないと解放しない。
と、言外に告げる。
瞬時にさまよった視線が地面に固定されてから数十分が経ち、未だに赤いままの顔で告げられた言葉に頬が緩んだ。
残された選択肢(私も好きだって言うしかないじゃないか)
write by 99/2008/05/16
男勝りな主人公。
だけど、乙女…みたいな感じ。
幸村様は本当に魔王にしそうで方向が難しい。
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