短編 | ナノ

 漢字表記で僕の名前を


音子はいつもカタカナ表記で名前を呼ぶ。

それは俺だけじゃなくて、“みんな”もなんだけど、なんかちょっと、かなり嫌だ。



「ねー音子」

「どしたのー?ジロー」



読んでた本から目線を俺に移してくれたことに、多少ながら愛を感じる。

音子がどう思ってるかなんて知らないけど、俺は音子が好き。



「なんで、名前そういう風に呼んだC?」

「そういう風ねー」



音子がクスリと笑う。

一瞬、滝と重なって見えたのは、絶対に気のせいじゃないと思う。



「アトベもユーシも、チョタだって文句言わないのに、今日のジローはおかしいね」



おかしくもなるよ、音子。

音子の口から他の男の名前が出る度に、ドキドキする。

だって、いつ、カタカナ表記で呼ばない奴が出てくるかもしれないから。



「ね、音子」



これって独占欲なのかな?



「『慈郎』今度からは漢字表記で呼んでね?」



カタンと音を立てて、席を立つ。

そろそろ部活に行かなきゃ、樺地が迎えに来る。

音子からは何のリアクションも返ってこない。

教室の出しなに、開けっ放しのドアに手をかけて、音子を振り向いた。



「漢字表記、俺以外はダメだCー」



言いたいことだけ言って、教室を出た。

だから、俺は知らない。

真っ赤になって俯く音子がそこにいたことを。

音子の想いを知るのは、次の日、真っ赤になりながら、俺の音子を呼んでくれてから。



漢字表記で僕の名前を。
(告白よりも質が悪いわ、芥川慈郎)
write by 99/2008/05/16




ホントは「『慈郎』今度は漢字で覚えて」って言わしたかった。
ただ、それはあまりにも主人公がバカっぽいと思いとどまりました。
「じろう」という名前を一発で「慈郎」と変換できる人はなかなかいないんじゃとできたんです。
リベンジで、今度こそ、覚えてネタをやるぞ。



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