お題 | ナノ

蝉の声に消えた言葉(鳳長太郎)



「鳳くん!」


声をかけた。
声が裏返ってないか不安。
背の小さな私は、彼の視界になんか入らないから、必死なんだ。


「陸上部の…」

「え?」

「なんでもない。どうかしたの?」


私の入ってる部活名が出てきてビックリした。
でも、鳳くんが知るわけないのに。


「部活っ!頑張っ、てね?」


絶対変だった。
途切れた言葉も私の声も顔も全部。


「ありがとう。そっちも部活頑張ってね」


微笑んで去る鳳くん。
あぁ良かった。
幼稚舎でも中等科でも鳳くんと同じクラスにはなれなくて、中学から始めた高跳びは背の高い鳳くんの視界に小さな私が少しでも入ったらいいなと思ったから。
ずっと恋い焦がれていた。


「好きです」


直接言う勇気のなかった言葉は鳳くんの背中に呟いたけれど、蝉の声にかき消えた。



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