お題 | ナノ

帰えろっか(跡部景吾)



水曜日の放課後の生徒会室。

私と跡部景吾は2人きり。


「跡部ーっ」

「なんだ?」

「わかんない」


跡部の机には生徒会の書類が並んでいて、一方、私の机の前には数学の宿題が並んでいた。


「まだ一問もやってねぇだろうが」

「なんで、知ってんの?」

「書く音がしねぇんだから、わかるに決まってんだろ。つべこべ言わずに、さっさとやりやがれ」


激しく口の悪い跡部だが、言ってることに間違いがないだけにムカつく。

だが、早くしなければならない。

跡部の仕事はすぐに終わるだろう。

ただでさえ、多忙な跡部をこれ以上付き合わせるわけにはいかない。


「むー」


だが、シャーペンは一向に進まない。

というのも、書くことなど最初から何もないからだ。

宿題などとうにできていた。

宿題が終わってないから、生徒会室で一緒に残ってもいいかなんて言い訳しか思い付かなかった自分が馬鹿らしい。


「終わったか?」

「跡部は?」

「終わった。ほら、教えてやる」


跡部にしては優しいお言葉をいただき、少しだけ頬が緩む。


「何笑ってやがる」

「なんでもない。ね、跡部」

「あーん?」

「帰えろっか」


フッと笑った跡部は


「そうだな」


と言って、帰り支度を済ました私の手を引き、歩き出した。




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