お題 | ナノ

憂うつな朝のカフェ(橘桔平)



「眠い…」


寝不足のふわふわした意識を引きずりながら、私はモーニングタイムのオープンカフェのテーブルにうなだれた。
視界の端では、テーブルに乗った眠気覚ましの珈琲が湯気を立てていて、ノートパソコンの画面には未だに終わっていないレポートが映し出されている。


「あねさん?」


独特の呼び名に顔を上げれば、ついこの間というには随分前に、お隣に越してきた橘さん家の長男が不思議そうにこちらを見ていた。


「桔平くんだー」

「眠そうですね」

「徹夜明けなんだよねー。やっばい顔してるでしょ?ゴメンね、こんな顔見せて」


苦笑して返せば、肩に掛けていたテニスバックを掛け直して、少し考える表情を見せる。
年相応とは言えないまでも、桔平くんは青春らしい青春をしているみたいだ。
まぁこれは部活の話なのだが。
実のところ、私は異様に桔平くんのコトを知っていたりする。
彼の妹、杏ちゃんが私を実の姉のように慕ってくれていて、桔平くん情報を語って帰っていくのだ。
お陰様で、橘家の兄妹に『あねさん』と呼ばれている。


「あねさん、これ、良かったらどうぞ」


桔平くんの手には美味しそうなお弁当。
食欲がなかったのだけれど、食べたくなるくらい美味しそう。


「いいの?桔平くんのお昼でしょ?」

「俺はなんとでも。お口に合わないかもしれませんけど」

「あ、もしかして、噂の桔平くんのお手製お弁当?」


噂のといっても、杏ちゃんが言っていただくなのだが。
そう言うと、少し桔平くんの頬が赤く染まる。


(ありゃ?)


口元を隠すようにその大きな手が口元を覆った。


「夏って言っても朝は冷えます。ばってん、身体、気ぃ付けてください」


早口にそう言って桔平くんが立ち去った。
お弁当はちゃっかりテーブルの上。


(微妙に方言混ざってた…)


私にまで赤面が移ったのは気のせいだって思いたい。




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